シャウプ使節団日本税制報告書

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シャウプ使節団日本税制報告書

 税制使節団は、連合国最高司令官の要請によって編成されたものであるが、日本の租税制度に関する本報告書を右連合国最高司令官に提出するものである。

 本使節団は、日本における恒久的な租税制度を立案することをその主要な目的としている。従って、本年度および明年度における財政的な問題を超えて考慮されるべき諸問題に重点がおかれている。 しかしながら、われわれの勧告が1949-50会計年度および1950-51会計年度の予算にどのような影響をおよぼすかについては、細部にわたってこれを具体的に論ずる必要があった。長期の計画は1949年の春、ドッジ使節団の勧告の助成によって最近達せられた経済安定を阻害することなく、実施され得るようなものでなければならない。

 この長期の計画自体は、二者の中のいずれかのものになりうるものであった。すなわち、われわれは、周到に保存された資料および困難な問題の聡明な分析によらないで、所得、富、および事業活動の外形標準に依存する多少幼稚な租税制度を勧告することもできたのであるが、かかる租税制度によって必要な収入は確保することができるとしても、それは納税者間の甚しい不公平を永続せしめ、公民の責任観を鈍化し、地方団体をして不安な国家財政依存を継続せしめ、ひいては生産および分配に好ましからざる経済的影響をもたらすものである。加えるに、われわれは、租税法規の公平且つ能率的な施行および日本の納税者の高度な納税に対する協力を得るための困難は必ずしも不可避なものでないとの確信を得たのである。従って、われわれの目的は、商工業者および相当な生計を営むすべての納税者が記帳を励行し、公平に関連するかなり複雑な問題を慎重に論究することを辞さないということに依存する近代的な制度を勧告するにある。同時に、また、小さな納税者には、申告および納税の手続を簡単なものにしておくべきである。このような方向で問題を検討すれば、日本が今後数年のうちに、もしそれを欲するならば、恐らく世界で最もすぐれた租税制度をもてないという理由はなんら認められないのである。いずれにせよ、本報告の一貫した狙いは、かかる目標に通ずる途を開放しておくことにある。

 ここにわれわれが勧告しているのは、租税制度であって、相互に関連のない多くの別個の措置ではない。一切の重要な勧告事項および細かい勧告事項の多くは、相互に関連をもっている。もし重要な勧告事項の一部が排除されるとすれば、他の部分は、その結果価値を減じ、場合によっては有害のものともなろう。従って、われわれは、勧告の一部のみを取入れることに伴う結果については責任を負わない。例えば、われわれは、所得税において法人税との二重課税を避け、同時に常習の脱税を防止するような租税制度を立案した。このような制度のうちでも重要な部分とされているのは、譲渡所得を全額課税し、譲渡損失を全額控除することである。但し、その所得を数年にわたって繰越し、単に貨幣価値の変動に基く尨大な譲渡所得を控除することは認められる。もし現在実施されているように譲渡所得と損失が全額ではなく、何%しか算入されないものとすれば、われわれの勧告による法人税および所得税は大巾な改正を要するであろう。

 われわれ使節団の構成員は、米国における先約の許す範囲でこの仕事に多大の時間を捧げ、1949年4月から9月の間に随時日本に到着し日本から立ち去った。全体として使節団はこの研究に四カ月間を費した。5月と6月の大部分は、納税者、税務職員(国、都道府県および市町村)または他の者との談合に充てられた。北海道から九州までの日本全土にまたがる実地調査によって、東京以外の多くの情報を入手した。限られた紙面はこれらの談合でわれわれに資料や思いつきを惜しみなく提供した多数の人々に謝意を表すること許さない。しかし、ここに、G・H・Q経済科学局局長ウィリアム・F・マーカット少将、経済科学局歳入課長ハロルト・モス氏、大蔵大臣池田勇人氏および同氏の補佐官、特に、平田敬一郎氏と原純夫氏、また財政学の教授であり本使節団の公式の顧問を勤めた東京商科大学の井藤半弥教授、京都大学の汐見三郎教授および東京商科大学の都留重人教授ならびに日本政府外務省の赤谷源一氏等の多大の恩恵に浴したことを特に記しておきたい。更にわれわれは、租税制度の欠点を記入するのに役立つ手紙を送られた多くの納税者を含めて、われわれを援助した他のすべての方々に感謝するものである。

 本報告における勧告は本使節団のものであって総司令部、第八軍または日本政府はこれに対していかなる責任をも負わない。われわれは、この勧告が、総司令部の各局各課の担当官があらゆる点において妥当と見られる解決策を探求するにあたって重ねてきた幾多の努力にもかかわらず、なお、かれらが直面している特定の困難な諸問題から生ずる諸要請に適応するよう努力した。しかしこの報告に対する責任はわれわれのみが負うべきところのものである。
税制使節団の各構成員は、本報告の主要な結論においては大体意見は一致している。しかし、日本を立ち去る時期が各自異っていたため、報告の最終的なものはシャウプ、ヴィツクリー、ウオレンだけが眼を通した、従って勧告の全文に対して他の構成員は同じ程度の責任を負うべきではない。

 税制使節団の各委員の氏名および職名は左のとおりである。
ハワード・R・ボーエン=イリノイ大学、商業および経営経済学部長
ヂェローム・B・コーエン=ニューヨーク市立単科大学、経済学部教授
ローランド・F・ハットフィールド=ミネソタ州、セント・ポール収税庁、税制調査局長
カール・S・シャウプ=コロムビヤ大学、商学部教授兼政治学部大学院教授(税制使節団長)
スタンレー・S・サリー=カリホルニヤ洲、バークレー市、カリホルニヤ大学法学部教授
ウィリアム・C・ヴィツクリー=コロムビヤ大学、政治学部、大学院教授
ウィリアム・C・ウオレン=コロムビヤ大学、法学部教授

 日本語の訳文は、原文の最終的修正が行われている最中に、極端な時間の制限のもとになされたものである。対照上相違が生じた場合は、英文によるべきである。

1949年8月27日


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