付録 C
固定資産の再評価
(REVALUATION OF ASSETS)
- [ # この章の目次 --- e-text 版のみ ]
- 経済上の考慮
- 適用
- 再評価の方法
- 適当な帳簿のある法人
- 適当な帳簿のある個人
- 山林
- 帳簿がない場合、または不備の場合
- 減価償却および除却のできる資産に共通の調整
- 再評価の方針および審査の決定
- 再評価後の申告手続および適用される基準
- 再評価の実施期日
- 再評価差額
- 再評価に適用される一般法則の除外例
- 農民
- 歳入の徴収に対する再評価の影響
- 諸外国における経験
経済上の考慮 (Economic Considerations)
所得税および法人税は、その現在までの発展経緯に徴して、日本が過去数年間において経験したような深刻なインフレーションの下において効果的に運営されるように出来上ったものではない。加えるに、一般的にいって、所得税、および法人税に刺戟されて発達して来た法人および企業経理もまた同様に極端な全面的物価水準の変動の影響を殆んど無視して行われてきたのである。このインフレ期間にわたって所得税および法人税および法人の経理方法の型は余り大きな変化を来たさなかった。従って、もし企業経理が経済的健全性と企業の進歩とを実際そのままに表わすものとしてのその本来の地位を確保しようとするならば、そして又所得税及び法人税が経済における資本の育成を今後阻害することのないようにすべきであるとするならば、ここに何等かの思い切った救済措置が講ぜられなければならない事態が発生したことは敢えて驚くに足らないことである。
根本的には、問題の起る理由は、所得税、および法人税と企業経理のいずれもが、貨幣単位 — この場合は円 — が一定の期間において大体不変的な価値を維持するという仮定の上に立っているからである。普通の貨幣価値の変動でさえ経理および所得税、および法人税の運営を或る程度阻害するがしかし普通の貨幣価値変動では経理並びに所得税、および法人税の実施面に顕著な欠陥をもたらすものではない。しかし、インフレーションが日本におけるそれと同じ程度に発生する場合には、この欠陥は明白なものとなり、何等かの手当が施されねばならない。厳密な理論からいえば所得税および法人税は価値の一切の発生および増加に対して、その発生と同時に適用されるべきものである。もしこれを実施するときには、名目所得を課税することとなって、その純粋の結果は、インフレーションの期間中に極端な財産税を課することとなるのである。
実際に、毎年資本の一部分が実質所得と共に所得税および法人税の課税所得に含まれて、所得税および法人税の税率の適用を受けることとなる。インフレーションが継続する限り、この状態は続き、もしインフレーションがそれだけ激しいものであれば、財産税は社会の真の生産的な資本— 少くとも個人企業のそれ —を甚だしく阻害する程に重いものとなろう。しかし、インフレ期が終るや否や、所得税および法人税は直ちに再び実質所得に対する課税となり、実際において資産は、貸借対照表に時価で計上され、結局においてインフレ昂進中資産の再評価が継続的に行われたことと同じになるであろう。損失はすべてなくなり、特になすべきことなくなるであろう。
実際の適用において所得税法および法人税法並びに経理の諸法則は、共に究極において一切の名目価値が名目所得として現われるという限りにおいては(すべての事実が遅かれ早かれ清算段階に入ることを前提として)前記の理論に合致するものである。しかし理論はこの所得がこのように現れることと、それに伴う資産の再評価が事実大なり小なり延期されるということによって修正されるものである。通常の例では、この名目価値の増加とこれに相応する所得は、実際に売却されるかまたは貨幣若しくはそれ自体が直接に貨幣と交換できるものと交換されることによって証明される時にのみ認められることになっている。この売却と所得の実現とは土地または施設が売却される場合または事業の全部が譲渡される場合のように、完全にしかも直接に行われることもあり得るし、あるいはまたこれに対比して一部または間接にもしくは両者を併行して —たとえばそれ自体が売却される物品の製造に機械の一部が使用される場合のように— 行われることもあり得る。
減価償却額以外のすべての経費を控除した後のこの産物からの正味売上高は、その機械を「使用」したことに対して受け取る価格を表わすものであり、一方減価償却額は、この特定の「使用」量に対して或る程度恣意的に機械の原価の一部を割当てたものを表わすものである。この差額が利益であり、これには実質的利益と、このように売却された「使用」量の名目価値の増加より生ずる名目的利益が共に含まれている。
この名目所得の「実現」の時期が異るので、われわれは現在若干の資産の再評価が既に行われ、それとともにこれに相当する所得が実現されたという状況に触れたのである。原則として、少なくとも所得税および法人税は、この名目所得について支払われたのである。しかし、他の場合については、この名目所得の実現および課税はまだ行われず、現行の物価水準よりも遥かに低い帳簿価格のままになっている。この実現の遅延の他の一つは影響は、インフレーションが継続する限り、一定の価値の増加の実現を納税上出来るだけ長く延期すればする程、納税のための貨幣の実質価値は、小さくなるということである。従って、もし仮りに所得税および法人税が画一的であり、且つ完全に施行され、もしすべての資産が今直ちに再評価され、それによって現われる名目所得の全額が課税所得に含まれるとしても、相対的に最も低い帳簿価格を有する納税者の方が通算してより軽い税額を納付する結果になるであろう。彼等は実際にその名目所得の実現を最も長く延期し得たことになり、しかもまだ、その名目的利益をより以前に実現し、従って同じ名目税額ではあるが、より高い購買力を有する貨幣で納付した者よりも、インフレ期間全体を通じて軽い総税負担を課せられたことになるであろう。
従って、もし種々の所得税、法人税の納税者間の不平等な取扱いを避けるとすれば、再評価に対してそれに相当する所得税および法人税を完全に課さないで、再評価を認めるためにこれを正当化する理由は二つしか存在し得ない。存在し得る一つの理由は、少くともインフレーションによる名目所得を所得に含めることに関する限り税務の執行が過去において非常にまずかったということを仮定することである。この議論が通るためには税務の執行が非常に悪かった結果、利益を既に実現したものの方がもし今課税されるとした場合利益の実現を延期して来たものが税をより低い価値の貨幣で支払うにもかかわらずこの利益の実現を延期して来た者よりも実際には税負担が軽かったであろうということにならなければならない。
再評価差額に対して免税することを弁明し得る他の一つの理由は、かかる差額に対して普通の所得税および法人税を課税する結果が余りにも悪く、更に行われる課税を公平の観念を離れて、強く削減すべしとする実用主義的な議論である。
事実、現状においては、両者共に相当な論拠を有するものである。インフレ期においては、相当な混乱が生じ、所得税のための所得の評価は、少くとも名目所得を含むものとして評価せらるべきであった所得に比較して甚だ不完全なものであった。多くの場合、所得の評価は、納税者に生じたかも知れない名目的インフレ所得を殆んど考慮に入れていない納税者の繁栄を表わす一般的指数を基礎に行われた。従って、この期間にその名目的インフレ所得が実現した納税者の方が、仮にその再評価差額が非常に軽く課税されるが、未だこの所得を実現していないものよりも実際には必ずしも不利な立場に置かれないということは或いは本当かも知れない。
経済におよぼす影響について見るに、過去において名目所得に対してなにがしかの税額が徴収されたことによって生ずる影響の如何を問わず、その税の残余額を税率の最大限度において一時にまたは一定期間内に徴収しようとすることが経済に重大な影響をおよぼすことは明瞭である。過去における経済的影響は課税が非常に不正確であったことによって相当に緩和されていたが、更にこれらの影響はインフレーションの影響によって隠蔽されていた。もしわれわれが将来健全な且つ円滑に運営される租税制度を持つことを決意するならば、これに匹敵する程度の課税上の不備は、堪え難いものであり、安定した経済のもとにおいては、かかる税を完全に徴収することの影響は、より顕著なものとなり且つより不穏なものとなる可能性がある。
しかし、評価による利益に対して直ちに、またはそれが実現された時に、これを最大限度に課税しようとすることの影響は相当なものであるが、このことはまた誇張されすぎやすい点でもある。
インフレーションから生ずる名目利益に対する所得税および法人税を緩和ないし除去しようとする主な、そして恐らくは唯一の緊急な理由は、資本の蓄積に対するこの税の影響に関連している。現在、日本はその生産機構を近代的水準に引上げ、戦争による被害と欠けていた進歩を回復するために貯蓄と投資との増加を最も必要としている。したがって、この貯蓄と投資を阻害するどんな要素でもそれは重大な問題である。
合理的な基礎においては、インフレ利益の実現に対する所得税および法人税の課税が資本の蓄積を阻害する主な方法は、貯蓄と、したがって投資者にどれだけの資産が残されるかということに対して影響をおよびすことによるものである。
実質的な面からいえば、主たる影響はこの税が通常ならなされていたであろう貯蓄の減少または実際の資本の食い潰しによって資本から支払われる可能性が特にあるということからきている。このような税を消費者に転嫁することは、一つには物価統制があるために、また一つには課税さるべき名目的インフレ利益の発生しない新たに取得された資産を使用する新会社の競争があるために、困難であるかまたは不可能なことである。また、かかる税を法人の場合には配当金、個人の場合は必要生活費の引出の削減によって支払うことは困難である。なんとなれば多くの場合、かかる額は負担さるべき税額に比して小さいからである。したがってこの税は、究極において企業の所有者の資金の実質的価値を減少せしめることになろう。この実質資本の侵害が、他の者の貯蓄と投資の増加によって相殺されない限り、これは経済が利用し得る総資本の減少を意味するものである。産業の発展と近代化に要する資本が甚だしく欠乏している日本経済の現状において、このような資本供給の減少は、重大な問題である。また、税は企業に従事している個人および法人に特に重くかかるから、資本の侵害は、活発な支配的産業の利益と分前に重くかかってくる可能性がある。その結果資産が狭められ信用機構の全部がその均衡を失うことにもなり得る。従って信用機構の混乱は貯蓄をしたものがその必要に応ずる投資を見出すこと、または資金を必要とするものが、産業が与え得る条件のもとに貸出をしようとする貸主を発見することをより困難ならしめるかも知れない。それ故に資本の直接の侵害が国全体のそれに比較して小さなものであっても、経済におよぼす影響は究めて重要なものとなり得るのである。
然し乍ら他の方法によってもインフレの利益に対する課税が、資本の蓄積に対して影響することがある。もっともこれらの作用は、大部分個人の非合理的行動によるものが多いが、それにも拘らずその影響は、実際に小さいものではなく、考慮にいれられねばならない。
たとえば、古い資産を有する会社のインフレ利益に対する税が徴収される限り、その会社に新たに投資を行うことを避ける傾向が或る程度出て来る。なんとなれば、それはインフレが更に続かなければ、新投資に対してなんらこれに匹敵する課税が行われないということでも一見税負担が重いと感ぜられるからである。また旧会社を支配する者の資産が阻害されるから、彼等は従前の水準においてその事業を継続するために必要な借入れまたは追加資本を獲得できたとしても、それは事業に対する支配を或る程度犠牲にすることによってのみ可能であり、従って恐らくは、一部事業の経営に経験のより少ない者の手に委ねることにもなる。また、この追加資本は、或は過度の利子の支払いを強いられる迄に借金をすることによってのみ得られることとなり、その結果、会社の資力は、危険にさらされ、経営者は圧迫されてあぶない見通しに直面する時、経済的でない決定をしてしまう。更にまたその借入れが金融機関からなされる場合、かかる金融機関は健全融資の建前上余りにも危険と思われるような貸出を大量に行わねばならないという立場に置かれ、その結果経済の金融機構が危険にさらされることになる。
また、所得税および法人税がその基準をこの名目所得に置く限り、有効な経理を行うことも極めて困難となる。
「実質」基準を使えば僅かな所得または場合によっては損失さえ生ずるのに会計帳簿には依然として相当な利益が計上されて行く。もっとも経営者はその方針の決定にあたりかかる架空利益を或る程度無視する傾向をとるが、これらの会計上の数字は恐らく彼等の行動の上に微妙ではあるが相当な影響を及ぼす可能性がある。従って配当金および賃銀が若干より自由に支払われることも充分に可能である。この帳簿「利益」によって物価が或る程度抑えられるかも知れないが、同時にまた経営者にとっては、特に賃銀所得者および労働組合指導者が利益中のインフレ的要素を除去するための特別な調整についての説明を通常余り信用しないから、賃上げ要求を防ぐのにより大きな困難を感ずるであろう。
もし過去において完全な課税が行われ、人々がその会計帳簿の数字によって欺かれなければ、再評価差額に対して無税または相当軽減した課税を認めることは、殆んど償うことのできない深刻な不公平を生ずる。このような条件の下において最も妥当と考えられるのは、政府がかかる税収入を分離し、直接投資を行うか又は融資基金とするか或いはその他の方法で貯蓄又は投資を促進する方法で資本形成を促進するために使用することである。
しかし、実際に課税が行われて来た方法を考えると、軽減税率を適用して、再評価を認めることは、かかる名目利益に対してこれを全部直ちに、またはそれがその後実現される時に課税することを必要とするということよりも大体において大して不公平でないと思われる。しかも一方なんらの措置が採られないとすれば、経済における資本の蓄積および合理的な生産に関する政策の採用に及ぼす影響は相当深刻なものであろう。
従って、かかる一部免税の資産再評価実現にあたっての行政上の諸困難を克服し得るならば、その実施を支持すべき相当な理由が存する。他面、しかし、再評価差額に対する所得税および法人税を全く免除するのでなく、納税者の資力を大いに涸渇することなく、しかも彼等をしてその所有する資産の時価の限度迄再評価させることを不当に阻害しない程度な税率をもって課税することを支持すべき相当な理由もまた存するのである。かかる適度の税率は、かかる納税者と、既にそのインフレ利益を実現し、それに対する税を支払ったものとの間に存するであろう不均衡を或る程度緩和することに役立つことになる。
のみならず、債券所有者およびその他の債権者は円の価値下落によって、実質的な経済上の損失を蒙っている。1936年に千円で取得した債券は、今もなお千円の価値を有するが、その購買力は、百二十五分の一以下に下落しているので、この千円をもってしては債券の取得当時に八円で買えた物資またはサービスしか買えなくなるに至った。この経済的損失は、債券所有者の課税所得を決定するにあたって損失として認められていない。所得税および法人税の算定上かかる損失を認めることは余りにも徴税にひどい影響を与え、およびもつかない多くの行政上の困難を惹起するであろう。もし債券所有者ならびにその他の債権者に対してその実質的損失を認めないとすれば、財産の所有者もまた少くとも両者相互間の最少限度の公平を確保するために、なんらの税が再評価差額に対して支払われない限り、その資産の再評価を認めるべきでない。
このような課税は国庫歳入に対する再評価による影響を弱めることに役立つ。
そしてそのことは将来の減価償却額を増加させて将来の納税額を減少させようという希望から再評価を極端な程度にまで伸ばそうとする納税者を或る程度阻止するということを助けることにもなるであろう。
適用 (Application)
異なった階層の納税者並びに各種の資産は、再評価が認められるべき限度の決定に際してすべて分析を必要とする。従って、われわれは、再評価が法人のみに適用せらるべきか、それとも個人、法人共にこれを適用すべきかを検討しなければならない。更にそれが土地および非事業用資産に適用せらるべきかを決定しなければならない。
理論的には、法人に対してその資産の再評価を認めることと、個人に対して同様のことを認めることの間に実質的な限界線を引くことはできない。もしこの原則が一の場合に適用されるならば、一見それは、理論的には他の場合にもまた適用さるべきものと考えられる。しかし理論から離れることを正当とする重要な実際的相違がある。一般に法人は可成り正確な帳簿を整備しているが、これに反して個人納税者はそれがない。法人の所有する一切の資産は単位別にして、その約七十%が正常の経理方式によって処理されているが個人の納税者の所有する財産はその三十%或いはそれ以下についてしか充分な記帳が行われていない。従って法人の資産に関しては、かかる資産の再取得価額を得るために物価指数を適用することは行政上可能なことである。個人納税者について同様な方法で事を運ぶことは遥かに困難である。しかし乍ら、事業を営んでいる個人納税者に対して行政上の困難の故に再評価を拒否することは、納税上の利益のためにより多くの個人企業者をして法人形式の企業方法に切替えせしめることになる。
このような拒否は、高い累進所得税率を回避するためにその企業を法人化した者に対する関係においてもまた反対されるであろう。もし法人がその資産を再評価することを許されるならば、この観点から個人納税者の事業用資産の再評価を認めるべきことは疑問の余地がないと思われる。
資産の再評価は減価償却および除却の対象となる事業用資産との関係において特に重要である。行政的見地からは、事業用資産とは納税者の事業にそれが全部または一部使用される一切の資産を含むものとして定義せらるべきである。納税者間の差別待遇は、主として総収入から減価償却および除却のために差引かれる額の不均等から生ずるものである。かかる差別待遇が相当なものであることは、(1)日本における各種紡績および織物会社の資産の価額別および単位別取得期日並びに(2)日本における各種化学、機械および鉱業会社の資産の価額別取得期日を分析している別紙に掲げる二の表によって明かである。減価償却および除却をなし得る基礎を作って置かねばならないから、再評価は、その当初から減価償却および除却の対象となる資産におよばなければならない。
しかし、もしわれわれが経理水準をよりよくすることに成功しようとするならば、納税者の帳簿上にある固定事業用資産が再評価され、その他のものは、再評価されていないということではかかる目的を達成することは困難であろう。
従って経理のみの見地からすれば、その他の固定事業用資産(主として土地)も同様に再評価さるべきことが重要と考えられる。しかし行政的観点からは、個人事業者の事業に使用される土地のみを再評価することもまた困難なことである。
彼の住宅と事業所が一つの住居に統合されていることもあり得る。従って営業と非営業を区分することが困難である。このことは店側が一階にあって、住居が二階を占めているような場合特に然りである。それゆえに、減価償却及び除却の行われる資産が、多少別個な取扱いを受けるにしても土地および家屋は現在すべてこれを再評価することが必要と考えられる。
土地および建造物以外の非事業用資産については、譲渡所得のための基準はそれが売却、または処分の時期までは課税に何等影響を与えないから、将来の或る時期においてこれを定められればよい。これらの資産の再評価は主として名目利益の課税を防止し、差別待遇を回避するために認められるのであるから、かかる再評価は、譲渡所得および損失の取扱いと調和しなければならない。
要約すると、納税者の事業にその全部または一部が使用される。減価償却および除却の可能な一切の事業用資産、一切の土地および個人の所有する住宅はどんな性質のものでもすべて一定の期日において速やかにこれを再評価すべきである。(但し農地については、再評価はこれを延期すべきである。)かくして定められた価額は、税に関し、あらゆる場合に使用すべきである。しかし、法人および個人の所有するその他の財産については、再評価を現在行う必要はない。但し本件は、前記勧告が実施された後の或る時期に再検討せらるべきである。決定は、その時の経済状況とここに勧告する再評価を実施することによって得られた経験に徴して行うことができるのである。しかし、これらのその他の種類の財産に関して定められるいかなる基準も、このような財産の売却または処分によって生ずる譲渡所得および損失の取扱いと調整されねばならないことを再びここに指摘して置く。
後に述べる通り、これらのその他の種類の再評価差額に対しては現在のところ課税を行わない。一方土地以外の固定資産に対しては、軽度の課税を行うが、その支払はこれを三年間にわたって繰延べる。再評価差額に対して支払われる税の詳細については後で論ずることとする。
再評価の方法 (Mehtod of Reappraisal)
まず最初から承知して置かなければならないことは、すべての資産について希望する結果をもたらすような再評価の方法を選択することは不可能であるということである。勿論このような巨大な再評価は、その運営において幾多の粗雑な点を有することは免がれない。又このようにして定められた価額は、大体においてしか正確なものではないであろう。しかし、このような新価額は納税者相互間における実際の価値により接近したものを反映する。従って、現在の納税者間の差別待遇は相当緩和されることとなる。結局のところ、その結果があらゆる点において正確とはいえないにしても再評価を行わねばならないことは明瞭である。
適当な帳簿のある法人 (Corporations with Adequate Accounting Records)
財産の再評価に物価指数を使用すべしとの提案は最も多くなされている。もし物価指数のみを採用することとなれば、採用される指数の種類およびその指数を作成するにあたっての各要素の軽重によって、再評価価格に不均衡を生ずる可能性がある。特定の産業に関する指数の方が一見一般指数よりよいと思われるが、このことが誤りであることは指数を分析することによって明瞭となる。過去幾年かにわたってなされた政府の補給金が特定の産業の指数を歪めていることは確実であろう。
更にまた戦争の混乱によって生じている欠乏は、これらおよびその他の指数を更に歪めるだけであろう。一般指数を用いることによって、これらの要素は、最少限度に減少せしめられ、長期に亘っては、かかる指数は、将来の安定価値をより正確に支映[#反映?]するようになると信ぜられる。
更に、特定の指数を用いることになんら実際的な困難がないとしても、また、かかる指数が、臨時の変動に影響されないとしても、理論的な根拠においては一般指数を用いることの方が好ましい。なんとなればわれわれは一切の利益を課税より免除しようとしているのではなく購買力の実質的増加を示さない利益のみについてそうしようとしているのである。ある特定の種類の資産の価格が、一般物価水準が百倍しか上昇していないのに、二百倍にも上ったとすると、このような資産の所有者は、その資産が単に物価の一般的上昇に比例して上ったものよりもよくなったのである。従って、そのものはもし単に百倍を限度して再評価を認められるとすれば追加して課せられる税を容易に負担し得るのである。一方その価値が五十倍しか上らなかった資産の所有者は購買力、即ちその資産の市場で売って得た代価もって購入できる一般物資および役務の量において実質的な損失を蒙ったことになる。少くとも 理論的にそのものは百倍まで再評価をさせ、終局においてはこの実質損失を控除する特典を与えることを認めることは妥当である。従って再評価実施には一般指数を使用するよう勧告する。小売物価、卸売物価および為替レートに関する指数を、用いてもよい。しかし為替レート指数は戦時中為替取引はなかったから不完全である。他の二つについては甲乙は殆んどないがこれを掲げれば次の通りである。
卸売物価指数 (日銀調) | 小売物価指数 (日銀調) | 全都市消費者価格指数 (総指令部調) | |
---|---|---|---|
1931 平均 | 78.7 | 135.5 | |
1932 | 87.3 | 136.8 | |
1933 | 100.0 | 145.6 | |
1934 | 102.0 | 148.7 | |
1935 | 104.6 | 151.6 | |
1936 | 109.0 | 159.2 | |
1937 | 132.3 | 174.3 | |
1938 | 139.6 | 199.7 | |
1939 | 154.2 | 223.6 | |
1940 | 179.2 *1 | 259.7 | |
1941 | 183.4 | 262.9 | |
1942 | 197.2 | 270.5 | |
1943 | 209.1 | 287.0 | |
1944 | 233.0 | 321.4 | |
1945.1 | 246.7 | 361.6 | |
2 | 251.4 | 369.7 | |
3 | 264.6 | 384.2 | |
4 | 300.4 | 393.8 | |
5 | 304.2 | 412.6 | |
6 | 306.0 | 430.7 | |
7 | 312.6 | 445.4 | |
8 | 320.6 | 475.1 | |
9 | 346.6 | 477.7 | |
10 | 354.4 | 483.9 | |
11 | 377.0 | 488.5 | |
12 | 584.9 | 945.9 | |
平均 | 330.8 | 472.4 | |
1946.1 | 672.6 | 1,057.2 | |
2 | 734.6 | 1,276.9 | |
3 | 1,184.5 | 1,851.5 | |
4 | 1,437.1 | 2,455.3 | |
5 | 1,489.4 | 2,761.4 | |
6 | 1,538.2 | 3,154.9 | |
7 | 1,731.7 | 3,291.8 | |
8 | 1,832.0 | 3,229.7 | |
9 | 2,006.7 | 3,432.5 | |
10 | 2,003.5 | 3,854.5 | |
11 | 2,225.5 | 4,016.9 | |
12 | 2,330.3 | 4,352.1 | |
平均 | 1,598.8 | 2,894.6 | |
1947.1 | 2,473.9 | 4,515,5 | 110.7 |
2 | 2,547.6 | 4,566.4 | 123.0 |
3 | 2,680.7 | 4,791.7 | 137.1 |
4 | 3,121.2 | 5,344.1 | 137.3 |
5 | 3,323.4 | 5,585.5 | 163.3 |
6 | 3,455.5 | 5,666.1 | 189.7 |
7 | 4,871.1 | 6,849.2 | 222.9 |
8 | 6,503.2 | 2,623.0 *2 | 216.1 |
9 | 6,960.0 | 8,770.3 | 224.4 |
10 | 7,832.9 | 11,670.6 | 236.1 |
11 | 8,599.1 | 13,601.1 | 250.1 |
12 | 8,929.1 | 14,552.8 | 282.2 |
平均 | 5,108.1 | 7,794.7 | |
1948.1 | 9,143.6 | 14,924.3 | 286.5 |
2 | 9,288.3 | 15,575.3 | 302.3 |
3 | 9,485.4 | 16,217.4 | 310.0 |
4 | 322.1 | ||
5 | 328.7 | ||
6 | 343.9 | ||
7 | 394.7 | ||
8 | 420.5 | ||
9 | 417.8 | ||
10 | 406.3 | ||
11 | 433.0 | ||
12 | 456.7 | ||
1949.1 | 475.1 | ||
2 | 466.2 | ||
3 | 468.1 |
[# 注] *1) 英文は 172.9 *2) 英文は 7,623.0
インフレーションは東京の方が他の都市よりも激しかったから、東京の小売物価指数は1946年8月からしか整備されていない全国都市消費者価格指数と結合されねばならないであろう。
土地に関しては、幾つかの特別な考慮が必要である。原則としては勿論土地が他の物資のように自由に売却できるものであれば土地についても同様に一般物価指数を適用しない理由は存しない。しかし、多くの土地は指定された価格で強制的に売却させられているしまた地代も自由市場において得られるであろう価格より遥かに低い水準において統制をされている。また自由に売却された土地の価格の騰貴は一般物価水準の騰貴より遥かに少いのである。
加えるに建物と違って土地については、減価償却はなんら認められていないから、土地を直ちに売却することを欲しない納税者にとっては土地を高く評価することは、直ちには、利益にはならない。更に土地は所得税および法人税以外の目的に評価される。即ち、地租および家屋税は、土地について決定される資本価格(農地については資本価格に調整倍数を乗ずる)をその課税標準とすることになる。土地について、一つは、大体(宅地にとって)市価を代表する地租および家屋税のための価額、また他の一つは取得価額または財産税の評価額に一般物価指数を適用して得られた相当高くて全く人為的な価額というように二つの価額を設けることは不都合である。また、もし税のための価額が、市価よりも相当高く置かれることは、納税者の間に損失の恩恵を欲するために土地を売ろうとする傾向を惹起するかも知れない。
従って、ここにおいてこの原則から若干離脱して、再評価によって定められる価額とその他の目的のために定められる価額との間の多少重要な体系的差異を避けるために、各地の再評価については宅地価格の特定な指数を用いることの方がよいと思われる。一般価格指数による理論的再評価と比較して、所得税および法人税の観点からのこのようにして生ずる不公平は、宅地の地代に関する各種の制限および規則の影響によって相当程度に相殺される。しかし各種の宅地について数種の別個な価格指数を使用することは可能であるが、すべての宅地について一つだけの綜合価格指数を用いる方がより好ましい。もし再評価が開始される前に、各個々の宅地がその使途によって区分されねばならないとなると行政に重大な支障を来たし、見分けのつかない多くの場合において分類の方法は必然的に多少恣意的となり、その結果は、差別待遇に終る。いずれにせよ異る種類の土地の指数の間に生ずる変動は次の表に示される通り、結果に重大な差異を生ずる程大きくはないのである。
年次 | 商業区域 | 住宅区域 | 工業区域 | 平均 |
---|---|---|---|---|
1936(9月) | 100 | 100 | 100 | 100 |
1937(〃) | 102(102) | 101(101) | 104(104) | 102(102) |
1938(〃) | 106(104) | 107(106) | 116(111) | 109(107) |
1939(〃) | 110(104) | 114(107) | 127(109) | 114(105) |
1940(〃) | 117(106) | 117(103) | 137(108) | 123(108) |
1941(〃) | 120(103) | 133(114) | 147(107) | 129(105) |
1942(〃) | 120(100) | 142(107) | 152(103) | 135(105) |
1943(〃) | 128(107) | 170(120) | 187(123) | 155(115) |
1944(5) | 129(101) | 186(109) | 206(107) | 163(105) |
1945(〃) | 163(126) | 246(132) | 262(131) | 210(129) |
1946(1) | 214(131) | 312(127) | 303(116) | 262(125) |
1946(9) | 443(207) | 599(192) | 531(175) | 501(191) |
1947(9) | 1,238(279) | 1,597(267) | 1,453(274) | 1,364(272) |
1948(3) | 2,483(201) | 2,845(178) | 2,628(181) | 2,507(184) |
1948(9) | 3,586(144) | 4,015(141) | 3,926(149) | 3,653(146) |
1949(3) | 4,670(130) | 5,168(129) | 4,960(126) | 4,703(129) |
註(1)本表は140都市中132都市について土地の平均物価指数を示す。
(2)括弧内は前年度と比較した指数を示す。
適当な帳簿のある個人 (Individuals with Adequqate Records)
土地を除いて再評価さるべき個人企業者の一切の企業資産には、小売物価指数を適用する方がより適当であろう。納税者の事業にその全部または一部が使用される非農地については、個人の所有する宅地の再評価には、法人の所有する宅地に使用するべきことが提示されているのと同じ平均価格指数を使用すべきである。
再評価される資産で納税者の事業にその一部または全部が使用されないものは、他の課税上の取扱いとよりよく調和せしめるために異った方法により再評価さるべきである。1946年3月3日現在において、その資産を所有していた者と同じ者によって現在所有されている資産の大部分はこれらの個人によって財産税の時に評価せられた。財産税の場合に使用された基準を小売物価指数で調整した上でこの場合の基準として用いるべきである。個人が財産を過少評価したことによって脱税したと同じ限度において、再評価の場合にはより高い課税標準によって課税されることとなろう。この点においては、個人財産税、譲渡所得および損失の所得税および法人税上の取扱いならびに再評価に臨む方法の調和統合はかなりの長所を有するものである。しかし、十万円未満の純課税資産を有していた個人は財産税を免除せられたのであるから、そのものからは資産に関して何等の報告もなされなかった訳である。この場合、個人が、その基準として採るべきことを認められる額は、1946年3月3日から引続き現在まで所有されてきた資産については、1946年3月3日以後に売却された品目について調整された小売物価指数の騰貴率を十万円に乗じて得た総額を超えない額に制限すべきである。1946年3月3日以降において取得された土地およびその他の固定資産で再評価実施の対象となるものについては、土地にあっては平均土地価格指数、その他のすべての固定資産にあっては小売物価指数によって調整された納税者の原価が、その納税者の再評価基準の最高限と定められる。
新しい基準は、主として納税者自らの手によって決定せられねばならないから、再評価を行うための基準が設けられることは極めて重要である。かかる要請があるため、これなくば可能であろうと思われる方法が排除される。かりにそのことが望ましいとしても当該企業の経営条件によって規定される価値に基く納税者の財産の評価額はこれを使用してはならない。また過去の収益の資本還元による方法は、これを使用してはならない。またかかる方法は、現在納税者間に存する差別待遇を永続せしめることに過ぎない。充分な記帳の行われている資産を再評価するのには物価指数は、明らかに実際的であり、公平な基準であると考えられる。
山林 (Timber Land)
山林の場合においては、再評価はその土地自体の価値に適用せらるべきばかりでなく、過去における移植やその他の手入れに支出された経費にも適用せらるべきである。かかる経費は、実際には仕掛品に対する経費というよりもむしろ建物の改築改造のための資本化された経費と同様の取扱いをなすべきである。一般の製造過程は支出が行われてから製品が販売されるまでの期間が余りにも短く、かかる場合に再評価を認めることは、それによって僅かに公平になる程度であって、それ以上の困難を伴う。しかし、山林に関しては、支出は、多くの場合、産物が売却される二十年乃至四十年も前になされる。この場合公平が維持されなければならないとすれば、この長期間の経過は、再評価を避け難いものとするのである。果樹園の場合も同様な考慮が払われねばならない。いずれの場合においても、適用される原理は、実際の経費を小売物価指数をもって調整することにあるが、その場合、間引きまたはその他の臨時的な産物からの収入は適当に考慮せらるべきである。
帳簿がない場合、または不備の場合 (Where records are lacking or inadequate)
多数の法人および個人納税者において、物価指数の適用のための記帳が行われていないことは、既に指摘したところであるが、かかる納税者については、同時にまたそれが記帳を励行している納税者に対する差別待遇を避け得るような歳入を確保するに必要な措置が講じられなければならない。
法人
すべての法人は、その帳簿の整備状況の如何を問わず、その資産を自ら再評価すべきことを要する。帳簿の完備しているものについては、再評価基準の最高限は物価指数によって決定される。充分な帳簿を備えていない者については、大蔵省は、納税者が再評価申告において再評価基準の最高限を超えて行ったかどうかを調査機関が判定するために使用できるような土地およびその他の固定資産の基準を作成しなければならない。帳簿の完備している法人納税者についても帳簿の完備していない法人納税者についてもその再評価申告の審査に関する具体的な権限が特別な委員会に与えられる。
個人
すべての個人企業者は、帳簿を完備しているといないとに拘わらず、その再評価せらるる資産について、再評価の申告をしなければならない。土地を除く一切のかかる資産は、かかる資産について財産税納付の時の基準を小売物価指数によって調整したものを用いて再評価せられねばならない。土地は再評価基準を求めるためには財産税基準を用い、平均土地価格指数を適用する。十万円未満の課税資産を有する個人は、財産税を免除された。
財産税調査時期以後に取得された資産について何等記帳が行われていなかった場合、または個人が財産税を免除されていた場合、大蔵省はその調査係官が使用できるような何等かの基準を作成しなければならない。しかし、財産税を課せられなかった個人は、如何なる場合においても、その1946年3月3日現在に所有していた土地およびその他の固定資産を共に含めた一切の資産の合計基準額として、十万円を小売物価指数によって調整した額を超える額を認めることはないであろう。
減価償却および除却のできる資産に共通の調整 (Adjustment common to all depreciable and depletable properties)
日本の所得税および法人税の下における減価償却は定率法に基いてなされてきた。各種物価指数によって調整される帳簿価額または取得価額を求めるにはかかる取得価額は、それに対して定率法により減価償却のための適当な調整を加えた後求められねばならない。勿論、資産の耐用年数期間中になされた支出で資本化されたが経費として計上されなかったものは、税に関しては、帳簿価額または取得価額に付加されるであろう。この建前がもし厳重に守られないと異った資産の再評価基準の歪みが助長されることになる。除却の対象となる資産は、取得価額除却の基礎で調整されるであろう。
再評価の方針および審査の決定 (Determination of Policy and Review of Reappraisl)
一般的には、税務行政上の主たる重点は、再評価価額が過大とならないようにすべきことに置かれている。しかし、納税者には凡て再評価申告をなさしめるようにすべきである。指定された期限内に申告がなされない場合においては税務署にその見込みによって再評価を行う権限を与えるべきであり、その再評価はこれを最終的なものとみなすべきである。もっとも、通常の場合、納税者はその資産が一部陳腐化しているとの考えを或いは表わすものとして再評価のために合理的な低目の評価額を認められるべきではあるが、納税者が不当に低い額を申告した場合、税務当局はこれをより合理的な水準にまで引上げ評価差額に対して六%課税する権限を付与せらるべきである。
所得税および法人税の施行上一般的に委員会制度は、好ましくないとされているが、かかる制度は、この場合殆んど欠くべからざるものであり、適当な構成をもってすれば歳入の確保に必要な保護を与え得る筈のものである。記録および会計様式が不備である場合、および資産の陳腐化の程度を判定しなければならない場合、それを処理するには委員会が特に適している問題が発生する。かかる委員会が適切にその任務を遂行しようとするならば、その具体的な構成は極めて重大なことである。また、委員会の手続も慎重な考慮を要する。本報告において示めされ得るものは概略的骨子のみである。
綜合調整を行う中央委員会が必要である。その任務は、資産再評価および再評価申告において生ずることが予想される各種の問題を検討することおよび資産の再評価の実施が、日本全国にわたって統一のとれるように指令を発することである。この中央委員会の下に地方委員会または全国と地方の委員会を設けてもよい。全国委員会は、特定の産業でその範囲が全国的なものであり、かかる委員会の綜合的な審査に適するような産業について権限を有することとする。地方委員会は一つまたはそれ以上の特定の産業で主としてその産業の地理的位置が、特別な地域に跨っているものについて権限を有することとする。
これらの委員会の構成は、大蔵省、税務署、金融機関、財政および租税制度に関し学識経験を有する学界並びに各その委員会によってその再評価申告が審査される産業の代表者(会計帳簿を完備している納税者と完備していない納税者との双方の代表者を含む)を含むべきである。産業代表は、いかなる場合においても、委員会の半数を超えてはならない。
これらの委員会は、各種納税者の再評価申告のみを審査することになる。再評価申告を最初に検査する義務は大蔵省に課せられる。帳簿を具備している納税者が物価指数によって定められた最高限を超えている場合は又は大蔵省の定めた基準に照して資産が陳腐化しているという証拠がある場合、または帳簿を完備しない納税者が、大蔵省の定める基準による最高限を超えている場合、調査官吏は、申告書にその意見を付して当該委員会に送付する。委員会は申告書記載の再評価資料を審査し、必要に応じてその希望する方法によって追加資料をとることとする。しかる後において委員会は、納税者の適当な再評価基準を決定する。再評価の申告書には、調査官吏がまた必要に応じて当該委員会が申告書を適切に審査できるよう相当な情報を記載せしめることを要する。
各種委員会の決定は通常これを最終的のものとすべきである。限定された場合にのみ、中央委員会への審査請求の途を開くことが望ましいであろう。せいぜい審査請求は、納税者、政府又は委員会において申請することを要する。
中央委員会は、単独の権限においてこの申請を受理することもできるしまた拒否することもできる。統一をはかるために、委員会の申請は、政府または納税者のそれよりも自由に受理されるべきである。しかし全体として中央委員会においては、審査請求の受理にあたって、その選択に極めて慎重を要する。再評価を比較的短期間に完了するためには、公平はときとして犠牲にされることもある。一切の再評価について、概ね一カ年内に最終的決定が全般的になされることは望ましいのみならず必要であると考えられる。(但し、農民については二カ年の期限が認められるからこの限りでない)すべての納税者の再評価が1951年9月30日までに完了されるよう措置すべきである。
再評価後の申告手続および適用される基準 (Filing reqirements and standards applicable after revaluation)
法人および個人の納税者で適当な帳簿を付けている者で再評価申告書を提出したものは、青色申告用紙で所得税および法人税の資料を申告し、その税額を計算することを認められる。その他の一切の納税者は白色申告用紙を用いて申告することを要する。白色用紙を用いて申告する納税者に対しては減価償却は、認められない。また大蔵省は白色用紙を用いて申告する納税者に対して適用される基準を定める場合において減価償却は考慮しない。白色用紙を用いて申告する納税者は、大蔵省の認可を受けた会計帳簿を設け且つ維持することによって青色用紙を用いて申告する権利を与えられる。
再評価の実施期日 (Effective Date of Reappraisal)
思いがけぬ儲けが生ずることを避けるために、資産が再評価せらるべき期日は、本報告発表以前のある日時 —たとえば1949年7月1日— とすべきであることを提案する。それから再評価の恩典は、1950年1月1日現在においてすべての納税者に与えられることにすべきである。
再評価差額 (Reappraisal Gains)
再評価を行う権利に関連して有効な保障が設けられない限り、再評価基準を物価指数又は大蔵省の定める基準によって認められているそれよりも高いものにしようとする納税者が出て来る。再評価差額に課税することを可とする公平的見地からの議論は、吟味してみると、余り強いものでないということをわれわれは認める。資産の処分によって既に実現された譲渡所得の大部分は、法律通りに譲渡所得課税の完全な適用を受けなかったようである。それにもかゝわらずある納税者は、疑うべくもなく、その譲渡所に対して税を納付したのである。更に債権者は、円価値の下落による実質価値の損失に対して何等の考慮をも払われていない。財産の所得者は、債権者と財産の所有者との間に一見なんらのかの公平を見出せるようなある程度の課税が行われるという場合においてのみその財産についてより高い基準にすることを認められることが公平の概念に合致しているものと考えられる。この理由から、また過大評価に対する保障として、農地および山林以外の、減価償却および除却のできる資産に帰せしめられる再評価差額に対して一律に六%の課税を直ちに行うべきことを勧告する。この税額は三年間にわたって三%、一%半、および一%半と分割して支払われる。再評価されるその他の一切の資産(主として市街地の土地および住宅)の再評価差額に関しては、この差額は、現在決定されるべきであるが(但し、農地および山林は1952年10月1日現在で評価され、この評価額は、その後可及的速やかに決定される。)税額は、将来財産が売却または処分される迄は納付されない。従って所有者は遥かに高い基準が得られることとなり、かかる財産の処分に対する税額は、これに応じて減少する。
換言すれば、最終的な処分による差益は二つの部分に分けられる。(a)再評価差額 —これは一律に六%課税される。(b)再評価後の差額 —これはその全部が納税者の所得に含まれ、所得税および法人税の税率の適用受ける。
資産の再評価によって一度新しい基準が定められたら、その基準は、一切の税 —国税、都道府県税および市町村税— に関して最小限度の基準として用いられなければならない。
また、現在において、再評価差額を増資株式の発行の基礎に使用しないことが重要である。かかる株式の発行を許すことは、投機的操作の増大を惹起せしめ、配当金の増額を助長することによって新資本施設を賄う貯蓄の蓄積を阻害し、実際には、利益からでなくむしろ資本からの分配に外ならず、これは原則的に好ましいものではない。再評価差額は、これを特別留保資本金勘定に積立てるべきであり、五年間は分配を行うべきでなく、また評価差額の資本金勘定繰入れは、認めるべきではない。右期間終了後において、その会社の純資産が再評価差額勘定と資本金勘定の合計額を基礎として資本化を正当とするものであるかどうかを決定すべきである。
再評価に適用される一般法則の除外例 (Exception to the General Rules Applicable to Reappraisal)
企業再建整備法によって特別経理会社となった四千九百[#英文では4990]の会社の債権者の間に不公平を生ぜしめないためには、これらの会社について何等かの特別な措置が講ぜられねばならない。前記法律の下における企業の整備は、活発且つ慎重に進められているから、既に達成せられた有効な業績を乱すようなことは現在これを避けるべきである。
同法の下における計画実施の状況は以下に要約される。
無制限会社 | 制限会社 | 計 | |
---|---|---|---|
1.提出計画総数 | 4,428 | 562 | 4,990 |
2.1949年5月31日迄に認可済みの計画件数 | 4,059 | 337 | 4,396 |
3.1949年6月中に認可された計画件数 | 71 | 27 | 98 |
4.1949年6月20日迄に認可された計画総数 | 4,130 | 364 | 4,494 |
5.未認可件数 | 298 | 198 | 496 |
6.完了比率 | 93.2 | 64.8 | 90 |
7.現在迄の資本増加 | \11,745,328,200 | \7,878,975,200 | \19,624,303,400 |
8.現在迄の第二会社資本 | \2,139,652,000 | \2,721,100,000 | \4,860,752,000 |
9.現在迄の新資本 | \13,884,980,200 | \10,600,075,400 | \24,485,055,400 |
同法の下における計画実施の完了時期は、総司令部反トラストおよびカルテル課によれば大体1950年1月に予定されている。
もしこの整備計画完了以前に再評価を実施すると、その計画が完全に許可されていない会社の債権者の方が計画を完成した会社の債権者よりも有利な取扱いを受けることになる。かりにこの差別待遇を見逃すとしても、その会社の資産について同様な再評価を含む新規の整備計画にその債権者を参加せしめることを容易ならしめるために完成された計画を再び取上げるべく相当な運動が起ることとなる。
既に著るしく不安定な経済状態においては、このような結果を招来することは避けるべきであろう。
このことは如何なる特別経理会社もその整備計画が反トラストおよびカルテル課の認可を受ける迄は再評価を行うことができないこととすることによって極めて簡単に且つ公平に達成せられる。かように認可を受ける迄は、特別経理会社は再評価より生ずる恩典に欲する資格を有しない。従って、或る再評価は延期せざるを得ないかも知れないが、その場合、再評価は他のすべての会社について定められたのと同じ期日に実施される。この保証をもってすれば反トラストおよびカルテル課の整備計画には、何等支障がないものと信ずる。事実再評価の恩典に浴しようとする刺戟は、整備計画を実際に促進することとなる。なんとなれば、残された特別経理会社は、再評価の利益を最も早い時期に獲得しようとし、従ってその計画が許可されるよう努力するからである。特別経理会社の資格を限に有しまたは有していた会社の債権者は、企業再建整備法の下において資産の再評価について全く同じ取扱いを受ける。
更に二つの特例が必要と考えられる。第一に、日本における特定の財産は、賠償の仮指定を受けている。これらの財産はまだその所有者の保管するところであり、実際にその事業のために使用されている。再評価を行うことを要求しておいて、その財産が賠償の仮指定を受けているのにこれに対して六%課税することは或る程度酷であり且つ不当であるとも考えられる。その故に賠償の仮指定を受けた財産は、指定されていないその他の財産と共に再評価は行ってもよいが、賠償が最終的に処理される迄は税は支払わなくてもよいこととすべきである。もし、その後において、その財産が、賠償名簿から落された場合、税は適宜な利子と共にその後比較的短期間内に納付されるべきである。もしその財産が賠償として取られた場合、日本政府は、その財産に対して先ず最初に権利を行使すべきことを要求される。
特別経理会社における賠償指定財産については、その帳簿価格は零に切下げられ旧帳簿価格は特別な仮勘定に上げられている。もし賠償の留置権が除去されとなればこの特別仮勘定の額は旧債権者に提供される。しかし、かかる財産の評価替えは、留置権が解除された時にこれを分離して特別資本金勘定に移すべきである。
第二に在外会社で終戦前日本にその支店を持ち、日本に相当な資産を有していたものがあった。これらの資産は分離せられ総司令部民間財産管理部の管理するところとなった。これらの資産について問題の最終的処理を見る迄は、再評価の一般的法則の例外を認めることが適当と考えられる。最終処理が決ると同時に、他の一切の会社と同様な条件の下において再評価を認めるべきである。唯一の例外としては、より高い再評価基準に対する減価償却の増加による納税上の利益は、納税者がその資産を再評価できるようになった会計年度以前の時には実現しないということである。もしこの除外例を設けないと、これらの納税上の利益は、再評価差額に対する六%の税の支払われる遥か以前に実現してしまうかも知れない。支払い遅延のために政府によって失われる利子は、いわば納税者によって失われる納税上の利益によって相殺されるのである。日本におけるこれらの会社の資産は、特別経理会社の資産と概ね同様な取扱いを受けるものと了解しいる。もしそうであれば、かかる会社の計画が許可されるまでは、その会社は再評価を行う資格を認められるべきでない。
農民 (Farmers)
農民は再評価において特別な問題を提起する。というのは、かれらは、その所有する土地を公定価格でしか売却することができない。しかもその公定価格というのは、いまだに農地改革計画に基いて購入した土地の価格のことであるからである。したがってわれわれは、農民が再評価に関して、次の如く取扱われるべきことを勧告する。
農地の再評価は1952年4月1日までこれを延期すべきである。右期日における公定価格を再評価における価額とすべきである。再評価差額は、その時において六%課税の適用を受けるべきものとするかまたは農民の選択により当該所得年度において譲渡所得として申告し、第五章B節ならびにそれを補足する付録記載の通り五年間にこれを繰延ばすべきである。
農民の住宅は、再評価のためには他の住居と同様に取扱われるべきである。したがって農民はその家屋を1949年7月1日現在で再評価するが、売却、贈与または遺贈により処分するまでは、再評価差額に対する六%の税額は、納付しないものとすべきである。
歳入の徴収に対する再評価の影響 (Effect of Reappraisal on Revenue Collections)
法人
法人の所有する一切の固定資産の現在の帳簿価格は七百八十億円である。ここに認められている方法によって再評価が実施されるならば、九十%の固定資産の最高再評価価額は約一兆四千二百七十九億円となって、一兆三千四百九十九億円の再評価差額を表わす。この差額のうち一兆一千億円は減価償却ならびに除却のできる資産についての差額を表わすものである。本報告の他所においてこれらの価額に対して六%課税し、その課税額を三年間にわたって三%、一%半および一%半の割合で支払うべきことが勧告されている。再評価差額に対する課税による収入は、再評価後第一年目には約三百億、第二年目および第三年目には百五十億円となる。
勿論、納税者がその総収入からより高い減価償却額および除却額を差引く結果、法人税よりの収入は、減少することになる。右の計算は、すべての固定資産の帳簿価格が、十八・三倍に評価替えされたことを仮定したものである。法人税徴収の減収の計算において、減価償却額が現在の合計三十九億七千七百万円の十六・七倍に増加することを見込んでいる。この結果、減価償却額は六百六十四億一千四百万円増加することとなる。従って、法人税よりの収入は、現在の三百九十億円の推計から約百九十億円に減少する。また、超過所得税の廃止の結果、現在の推計によれば、年約九十八億円八千万円の減収となる。収入上の正味の純影響としては、再評価後の一年間は再評価差額に対する税額の徴収は、法人税の減収および超過所得税の廃止による減収を相殺する。第二年目および第三年目については、収入上の正味の影響は、各年次について約百五十億円の減収となる。それ以後、数年間においては、収入上の正味の影響は、法人税収入の約三百億円が減収となる。しかし、租税法規の施行がより能率的になり、再評価によって促された経理方法が一層改善され、更に納税協力がよりよくなれば、再評価後に続く各年次において見込まれた減収は、著しく少くなるものと信ずる。
再評価から生ずる前記の純収入上の影響は、本報告の他節において勧告されているように、再評価について如何なることがなされようと、超過所得税が廃止されうことを仮定している。
もし超過所得税が廃止されないで、法人の資産の再評価が行われたとすると超過所得税の下における年徴収総額は約十億円と推計される。しかし、資産の再評価が認められるや否やに拘わらず超過所得税は、その気まぐれな且つ差別待遇的影響の故に廃止せらるべきである。したがって、再評価の収入に与える正味の影響の真の姿は、現在の超過所得税からの収入を除外すべきである。このことが行われれば、現在の法人税からの四百億円が基礎となるべきである。したがって収入におよぼす正味の影響は、再評価後の第一年目は、百億円の増収となり、第二年および第三年目は、おのおの五十億円の減収となり、それ以後数年間は約二百億円の減収となる。一方しかし、税法の執行における高度な能率は、以下詳細に掲げる再評価に続く各年次において逐次予想される減収を相当に少くするものと信ぜられる。A表は法人税および超過所得税の現在の徴収見込額の分析であり、B表はかかる収入見込みに対する再評価の影響を示すものである。
利 益 率 | 資 本 | 利益額 | 利 益 率 別 利 益 額 | 固定資産 (土地を除く) | 減価償却 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総額に対する比 | 金額 | 30%以下 | 50%以下 | 100%以下 | 100%超 | 金額 | 資産に対する比 | |||
欠損 | 10.0 | 20,000 | - | - | - | - | - | 6,631 | 133 | 2% |
30%以下 | 25.0 | 50,000 | 7,500 | 7,500 | - | - | - | 16,576 | 663 | 4% |
50%以下 | 20.0 | 40,000 | 16,000 | 12,000 | 4,000 | - | - | 13,261 | 795 | 6% |
100%以下 | 30.0 | 60,000 | 45,000 | 18,000 | 12,000 | 15,000 | - | 19,892 | 1,392 | 7% |
100%超 | 15.0 | 30,000 | 45,900 | 9,000 | 6,000 | 15,000 | 15,900 | 9,945 | 994 | 10% |
計 | 100.0 | 200,000 | 114,400 | 46,500 | 22,000 | 30,000 | 15,900 | 66,305 | 3,977 | 6% |
超過所得税 | 税率 | 10 | 15 | 20 | |
金額 | 9,880 | 2200 | 4500 | 3180 | |
普通所得税 | 39,900 | ||||
税額計 | 49,780 |
[# 底本では表中に罫線はありませんが、ブラウザでの視認性のため、表示しました(英文も同じ)]
備考
- (1) 固定資産の減価償却率は、欠損のものに対しては2%、利益率30%以下のもの4%、5%[#50%の誤り]以下のもの6% 100%以下のもの7% 100%超のもの10%として計算した。
- (2) 利益率別固定資産額は資本金額に按分して推計した。
- (3) 資本金額、利益額等の区分は1949年度中に終了すべき事業年度分に対する見積額によった。
利 益 率 | 資 本 | 再評価前利益額 | 減価償却増 | 再評価後利益額 | 利益率別超過所得額 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総額に対する比 | 記帳増加額 | 再評価後の金額 | 30%-50% | 50%-100% | 100%超 | ||||
欠損 | 10.0 | (134,995) | 154,995 | - | 2,221 | - | - | - | - |
30%以下 | 25.0 | (337,488) | 387,488 | 7,500 | 11,072 | 750 | - | - | - |
50%以下 | 20.0 | (269,990) | 309,990 | 16,000 | 13,276 | 2,724 | 400 | - | - |
100%以下 | 30.0 | (404,987) | 464,987 | 45,000 | 23,246 | 21,754 | 1,200 | 1,500 | - |
100%超 | 15.0 | (202,492) | 232,492 | 45,900 | 16,599 | 29,301 | 600 | 1,500 | 1,590 |
計 | 100.0 | (1,349,952) | 1,549,952 | 114,400 | 66,414 | 54,529 | 2,200 | 3,000 | 1,590 |
超過所得税 | 税率 | 10% | 15% | 20% | |
金額 | 988 | 220 | 450 | 318 | |
普通所得税(35%) | 18,945 | ||||
再評価後の税額計 | 19,933 | ||||
再評価による減 | 29,847 | ||||
再評価前の税額 | 49,780 |
[# 底本では表中に罫線はありませんが、ブラウザでの視認性のため、表示しました(英文も同じ)]
備考
- (1) 本計算においては、減価償却増が公定価格に織込まれないものとしている。
- (2) 固定資産の再評価益は次の如く推定した。
- (3) 再評価最高限… 14,279億円(実効価格の騰貴率に従い全額再評価した場合)
記帳価格 …… 780億円
差 引 …… 13,499億円
再評価額(差引額)13,499億円 - (3) 再評価の影響は法人によって異なる。従って本計算は、法人の一割は再評価をせず利益、資本金額とも不変とし、残りの九割が再評価により資本金額が増加し、利益が減少すると仮定した。
- (4) 減価償却増は、現在償却額の16-7倍(時価一杯)と推定した。(減価償却が再評価益全額について認められた場合)
- (5) 再評価益は全額資本に繰入れられるとする。括弧内の数字は再評価益を示す。
個人
個人の資産の再評価によって所得税のもとにおいて生ずるであろう収入減を見積ることは困難である。相当な努力の結果、大蔵省は、合理的と思われる若干の推計を試みることに成功した。以下C表において、個人の再評価差額に対する課税よりの総収入は約百七億四千万円となることが示されている。もしすべての納税者が青色用紙による申告を認められるとすれば、減価償却額の増による所得税における年当り収入減は約五十三億五千万円と推計される。したがって再評価後一カ年は収入減は、再評価差額に対する課税より生ずる増収を相殺する。二年目および三年目においては、純収入減は約二十五億円となり、それ以後は約五十三億五千万円となる。法人税徴収の場合と同様に個人所得税執行上の能率向上は、このように推計された毎年の収入減を少なくするようになると考えられる。
[# 以下の表(A-2,B-2,C-1,C-2)は次節の文中に置かれていたものですが文意よりこの節に移動しました]
[# 仮に A-2表 とする]
1945年8月末 | 1947年末 | 1948年末 | 1949年6月末 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
法人名(符号) | 終戦時の可動分 | 現在に対する比(a)/(K) | 1945年9月以後に復元された分 | 現在に対する比(c)/(K) | 1947年末日現在の可動数(a)+(c) | 1948年中に復元された分 | 現在に対する比(f)/(K) | 1948年末稼動分(e)+(f) | 1949年中に復元された分 | 現在に対する比(m)[#(i)]/(K) | 現在稼動分(G)=E/F | |
(a) | (b) | (c) | (d) | (e) | (f) | (g) | (h) | (i) | (j) | (K) | ||
A | 錘 | 267,848 | 57.9 | 128,268 | 27.7 | 396,116 | 41,120 | 8.9 | 437,236 | 25,296 | 5.5 | 462,532 |
織機 | 2,649 | 43.7 | 2,712 | 44.7 | 5,361 | 387 | 6.4 | 5,748 | 319 | 5.2 | 6,067 | |
B | . | 269,580 | 58.1 | 149,744 | 32.3 | 419,324 | 28,916 | 6.2 | 448,240 | 15,880 | 3.4 | 464,120 |
. | 5,003 | 75.8 | 1,152 | 17.5 | 6,155 | 444 | 6.7 | 6,599 | 1 | 0 | 6,600 | |
C | . | 231,464 | 70.0 | 39,580 | 11.9 | 271,044 | 55,300 | 16.7 | 326,344 | 4,500 | 1.4 | 330,844 |
. | 122 | 5.6 | 1,286 | 59.3 | 1,408 | 741 | 34.2 | 2,149 | 20 | 0.9 | 2,169 | |
D | . | 135,480 | 49.0 | 84,020 | 30.4 | 219,500 | 55,440 | 20.1 | 274,940 | 1,280 | 0.5 | 276,220 |
. | 1,841 | 44.4 | 1,318 | 31.8 | 3,159 | 643 | 15.5 | 3,802 | 342 | 8.3 | 4,144 | |
E | . | 190,312 | 64.0 | 62,868 | 21.1 | 253,180 | 36,272 | 12.2 | 289,452 | 8,000 | 2.7 | 297,452 |
. | 1,433 | 41.6 | 1,172 | 34.0 | 2,605 | 360 | 10.4 | 2,965 | 482 | 14.0 | 3,447 | |
F | . | 212,488 | 50.3 | 151,492 | 35.8 | 363,980 | 54,436 | 12.9 | 418,416 | 4,396 | 1.0 | 422,812 |
. | 2,152 | 62.2 | 1,173 | 33.8 | 3,325 | 69 | 2.0 | 3,394 | 65 | 2.0 | 3,459 | |
G | . | 150,860 | 53.7 | 61,532 | 21.9 | 212,392 | 66,156 | 23.6 | 278,548 | 2,296 | 0.8 | 280,844 |
. | 3,292 | 68.6 | 573 | 11.9 | 3,865 | 609 | 12.7 | 4,474 | 327 | 6.8 | 4,801 | |
H | . | 199,452 | 62.4 | 111,640 | 34.9 | 311,092 | 6,676 | 2.1 | 317,768 | 1,820 | 0.6 | 319,588 |
. | 2,255 | 84.6 | 9 | 0.3 | 2,264 | 31 | 1.2 | 2,295 | 369 | 13.9 | 2,664 | |
I | . | 175,136 | 61.7 | 62,252 | 21.9 | 237,388 | 41,032 | 14.4 | 278,420 | 5,596 | 2.0 | 284,016 |
. | 2,572 | 65.7 | 450 | 11.5 | 3,022 | 851 | 21.7 | 3,873 | 40 | 1.1 | 3,913 | |
J | . | 152,956 | 85.6 | 2,192 | 1.2 | 155,148 | 14,292 | 8.0 | 169,400 *1 | 9,240 | 5.2 | 178,680 |
. | 1,859 | 88.3 | -96 | -4.6 | 1,763 | 251 | 11.9 | 2,014 | 92 | 4.4 | 2,106 | |
旧10社の計 | . | 1,985,576 | 59.9 | 853,588 | 25.7 | 2,839,164 | 399,640 | 12.0 | 3,238,804 | 78,304 | 2.4 | 3,317,108 |
. | 23,178 | 58.9 | 9,749 | 24.8 | 32,927 | 4,386 | 11.1 | 37,313 | 2,057 | 5.2 | 39,370 | |
新25社の計 | . | 0 | 0 | 43,714 | 19.4 | 43,714 | 57,870 | 25.7 | 120,132 d/ | 13,404 | 5.9 | 225,412 d/ |
. | 2,205 | 54.9 | 0 | 0 | 2,205 | 1,527 | 38.1 | 3,732 | 113 | 2.7 | 4,013 /d | |
合計 | . | 1,985,576 | 56.0 | 897,302 | 25.3 | 2,882,878 | 457,510 | 12.9 | 3,358,936 d/ | 91,708 | 2.6 | 3,542,520 d/ |
. | 25,383 | 58.5 | 9,749 | 22.5 | 35,132 | 5,913 | 13.6 | 41,045 | 2,170 | 5.0 | 43,383 d/ |
本表は日本紡績協会の好意により再成したものである。
[# 底本では表中に罫線はありませんが、ブラウザでの視認性のため、表示しました(英文も同じ)。また、(1945年8月-1947年末)および(1948年末-1949年6月末)にわけて2ページに渡って掲載されていたものをここではまとめて表示しました]
*1 )英文は169,440
備考
- (1) 旧10会社は新設備を購入せず、1945年9月以後増設分は復元したものである。25の新会社は復元並びに新規購入をした。
- (2) 復元による設備とは、戦災および戦争中の損耗による機械で修理復元されたものである。
- (3) 新25会社の紡績機に関しては、それらが全日本紡績協会の会員でなくなってから、終戦時の可動織機正確の数を知ることは困難である。従って終戦時の可動数は概数である。これらの織機の幾つかについては綿工連(綿織物工業組合連合会)に登録されているが本表からは除かれている。
- (4) 復元紡錘に加え、新25会社は1948年度中に18,548 1949年度中に91,876錘を新に増設した。又1949年度中には168織機が新設された。旧10社、新25社とも1947年中の新設分の報告をせず又1948年度中の新設織機数も報告されていない。[#この項は表中の d/ の部分?]
[# 仮に B-2表 とする]
(単位百万円)括弧内数字は百分比 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
法人名(符号) | 1939年およびそれ以前 | 1940 | 1941 | 1942 | 1943 | 1944 | 1945 | 1946 | 1947 | 1948 | 計 |
化学工業 | |||||||||||
A | 93,566 | 6,909 | 7,716 | 12,192 | 18,614 | 20,619 | 38,181 | 25,286 | 3,524 | 17,312 | 243,909 |
(38) | (3) | (3) | (5) | (7) | (8) | (16) | (10) | (1) | (7) | (100) | |
B | 30,559 | 3,018 | 3,691 | 5,272 | 6,723 | 3,758 | 2,249 | 157,651 | 258,830 | 58,767 | 530,518 |
(6) | (-) | (-) | (1) | (1) | (-) | (-) | (30) | (49) | (12) | (100) | |
C | 33,147 | 16,611 | 23,202 | 42,612 | 16,623 | 23,538 | 34,631 | 147,307 | 337,671 | ||
(10) | (5) | (7) | (12) | (5) | (7) | (10) | (43) | (100) | |||
D | 5,928 | 18,646 | 1,237 | 434 | 247 | 123 | 78 | 3,518 | 190,904 | 21,525 | 242,640 |
(2) | (8) | (-) | (-) | (-) | (-) | (-) | (1) | (78) | (9) | (100) | |
機械工業 | |||||||||||
E | 13,219 | 2,726 | 2,711 | 7,513 | 5,140 | 9,058 | 3,049 | 2,888 | 2,340 | 1,895 | 50,539 |
(26) | (5) | (5) | (15) | (10) | (18) | (6) | (5) | (4) | (4) | (100) | |
F | 8,321 | 917 | 2,838 | 5,765 | 8,089 | 4,264 | 17,261 | 2,243 | 4,169 | 1,277 | 55,144 |
(15) | (2) | (5) | (10) | (15) | (8) | (31) | (4) | (8) | (2) | (100) | |
G | 162,292 | 31,818 | 21,930 | 17,691 | 27,387 | 49,076 | 44,897 | 55,030 | 1,091,489 | 1,573,906 | 3,075,516 |
(5) | (1) | (-) | (-) | (1) | (1) | (1) | (2) | (35) | (51) | (100) | |
H | 82,917 | 18,314 | 33,883 | 14,333 | 22,996 | 13,910 | 9,574 | 42,323 | 566,110 | 1,680,364 | 2,484,724 |
(3) | (1) | (1) | (-) | (1) | (-) | (-) | (2) | (23) | (68) | (100) |
備考 括弧内の数字は全法人資産に対する各年度に取得した資産の割合である。
実際の納税申告から大蔵省が調査した資料による
[# 仮に C-1表 とする]
資産種別 | 建物 | 機械及び設備 | 鉱業権及び 同賃借権 | 船舶 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
現在記帳価格 | 16,248 | 140,039 | 3 | 23 | 156,313 |
再評価価額 | 202,299 | 310,915 | 256 | 860 | 514,330 |
記帳増加額 | 186,051 | 170,876 | 253 | 837 | 358,017 |
現在減価償却額 | 852 | 9,341 | - | 2 | 10,195 |
再評価後の減価償却額 | 15,441 | 21,637 | 21 | 117 | 36,946 |
減価償却額 | 14,589 | 12,026 | 21 | 115 | 26,751 |
備考 本推計は非法人企業の全固定資産について再評価がなされるものと仮定した。
大蔵省調による。
[# 仮にC-2表 とする]
(単位百万円) | |
---|---|
評価益6%課税による収入増 | 10,740 |
減価償却増による収入減 | 5,350 |
1年目の収入増 | 5,390 |
2年目後の収入減 | 10,740 |
備考 (1)評価益は全評価額の5割だけ行うものと推定した。
(2)収入における変動は、平均の個人所得税率40%を基礎としている。
諸外国における経験 (Experience in Other Countries)
資産再評価は日本に特有なものではない。他の国においても激しいインフレーションを経験し、税および経理事務をより確固たる基盤の上に再建せしめる手段として各種の再評価手続をとらざるを得ないこととなっった。このことは、特に第二次世界戦争後における、ヨーロッパ諸国において然りである。まだ再評価計画を採用していない多くの国においてもかかる措置を講ずることの可否について検討が加えられている。
たとえば、ベルギーにおいては、再評価は、商工業および農業用機械および産業用建物その他これに類似する資産については無税で認められたのである。
[# ***底本ではこの位置にA-2表以下の表が置かれていますが、文意から前節の最後部に移動しました。***]
資産が1940年12月31日以前に終了する事業年度末、従って普通には1939年末前に取得または建造されたことを必要としている。この措置は、独乙[# ドイツ]の占領中建造された資産で独乙人により、または独乙人のために使用されたものの再評価より生ずる利益を除去する趣旨に出たものである。この資産は、1945年12月31日現在(原則として)においてまだ使用されていることを必要としている。右資産の新価額は、1939年8月31日現在の物価により、1945年12月31日現在(原則として)における減価償却された価額の二倍半を超えてはならないこととなっている。
ベルギーにおいては、第一次世界大戦のインフレーションとその結果に伴い1927年に同じような再評価が認められた。
ベルギーの新しい法律は、土地のみならず、商業用建物または事務所用建物の土台、壁、屋根の如く、耐用年数の長い施設を再評価の対象から除外している。事務用および家庭用家具よよび装飾品もまた再評価の対象から除外されている。無形資産についてもまた同様である。
もう一つの除外例は借金によって購入されたと見倣される資産に関するものである。債権に対する債務の割合を1939年の貸借対照表によって算出し、之を除外さるべき部分を決定するために再評価の対象となる資産に適用する。この理論はフラン価値の下落の結果資産の所有者が減価償却額(借金によって購入された資産の部分について)の実質価値の減少によって蒙った損失と同じ額だけ債務償還の実質的経費において利益を得ているからである。之は妥当な理論であるが資料のないことと複雑性を避ける必要性の上からこの原理を日本の再評価計画に適用することは不適当である。
ベルギーの企業においては1947暦年度または1947-8会計年度の帳簿に表われるように再評価が完成しなければならなかった。再評価によってもたらされた価額の増加は、減価償却の増加を差引くことなくしてこれを当該企業の所有者幹部および従業員に配当することはできない。
[# 付録C おわり]