[# 付録D D節 開始]
D 内部行政 (Internal Administration)
1 基礎構造 (Basic Structure)
最近、国税庁が設置された結果、税務行政の基礎構造は非常に改善された。この国税庁は全国的段階において、大蔵大臣の指揮下に税法の全般的行政に関する責任を負っている。
税務行政が成功するか否かはこの国税庁の官吏が、その仕事に対して有する能力、精力、指導力、および想像力の程度如何によるところが大きい。国税局は、国税庁に対し直接責任を負い、監督および執行の両任務を有している。すなわち一方では、その管轄地域内の税務署の仕事を監督し、他方では、比較的高額の納税者を含む事件を調査し決定し、税務署からの審査を審問する。この後者の執行上の活動はここ数年間の中に非常に重要なものとなるであろう。この仕事およびその他の新しい仕事に応ずるために、国税局の数および職員の増加を、注意深く検討しなければならない。
税務署は、税活動の最前線にある。税務署は、大部分の納税者が接触するとすれば、その接触する唯一の税務機関であるから、税務行政の正否は大部分これら税務署で国民が受けた経験によって判定される。それ故、税務署が納税者との関係において公正、能率的かつ真面目であることが肝要である。
2 税務官吏の実力 (Calibre of Tax Officials)
適正な行政手続によって支えられた健全な租税機構も、有能かつ人格高潔な官吏によって執行されるのでない限り、完全に失敗するであろう。所得税の成功はその執行を委託された官吏の実力にかかっている。
a 人選と訓練
有能な人を確保するためにはあらゆる可能な努力が傾倒されなければならない。一たん、その人を得たら、このような人々を適当に訓練すべきである。税務講習所は、高級なものもまた低級なものも、この点において非常に重要である。講習所の活動は奨励、強化すべきである。有能な教師は税制度の他の部分にいる官吏に適用されている俸給率につり合った俸給で任命すべきである。
その教育が税務署の最新の活動にもとずいてなされていることを保証する仕組みが考案されなければならない。学生には十分な書物およびその他の資料が与えられ、適当な宿舎が提供され、また常時実地訓練を盛んに行うべきである。
b 進級
進級は、その功績のみに基いてなされるべきである。税務の仕事は能力が決定的要素であるような出世の道を開かなければならない。主要な地位は有能な仕事と表明された能力に対する報酬でなければならない。これらの地位への就任は、特別の教育的または社会的背景を有する者に制限されるべきではない。
c 給与と厚生
俸給表は有能な者を誘引し、引留めるに十分な程高くすべきである。医療、住居等の如き被用者の厚生施設に注意を払うべきである。辞職の理由を調査し、人事の入れ替えを合理的な数字に止めるように努力すべきである。
d 腐敗と賄賂
租税の仕事から腐敗と賄賂を除去する方向に向って強固な決意をもった、活発な且つ不断の努力が傾注されなければならない。現在問題を悪化させる特殊な要因が存在していることが認められる。すなわち、税務官吏の大多数が若年で、無経験且つ薄給であること、税率が高過ぎること、および闇市場の活動が普遍的であること。その結果賄賂や贈与が無理矢理に、且つ執拗になされるとそれに対する抵抗力が弱化する。しかしながら、このような状態は容認し得るものではない。その解決策の一部は税務官吏のよりよき訓練と給与である。
他の部分は税務官吏の高度の道義心の発達である。しかし、人間性が現在の程度である限りそれ以上のものが要請される。最近決定された、国税庁に対して責任を有する特別の任務をもった監察官の一団を設置することは必要にして且つ適当な手段である。この一団は税務官吏の誠実さを確かめ腐敗を探し出すに十分な人数と能力を有しなければならない。
e 税務官吏の行為
税務官吏は国民の代表者であり国民から遊離した当局ではない。国民は、その政府の重要な職能のため支払資金を徴収する仕事をかれに託したのである。それ故、かれらの国民としての存在は税務官吏がその仕事を適正に遂行して行けるかどうかにかかっている。国民は、かれがその重責を厳格に果すことを期待している。しかし、厳格であることは傲慢または無作法であることを必要としない。厳格さは親切と忍耐力とを伴い、しかも厳格さの主要な性質を保持し得るものである。税務官吏は、現在よく耳にするように、納税者に対する高圧的な態度に関する抗議に正当な理由を与えないように職務を遂行すべきである。
f 職員の増加
人事に関する前述の一切の勧告、および提案した行政上の改善の一切のもととなる基本的な要請は税務職員の数を増加することである。十分は数の税務職員を雇うのを拒むことは「一文吝みの銭失い」である。税務の施行に支出される金は、徴税額の著増によって十分報いられる。この金は賢明に支出されなければならず、追加職員は適正に人選され且つ任命されなければならない。しかし、もし、これらの注意が守られれば、たとえ、単に、支出された金と受取られた金のことだけを見ても、終局の結果は確かに政府にとって有利となるであろう。
その上、もし租税措置が適正に施行されれば、政府およびその法律については多くの収穫を得たことになる。
3 訓令の運用 (Operating Instructions)
国税庁は、国税局および税務署に発した訓令を再検討し、それを最新のものにし、直ちに遵守利用できるように適当に編集し、索引を付けるべきである。このような内部的な行政上の訓令は、基本的性質を有する解釈とは別個にすべきである。行政上の手続が改正された後には、国税庁は全行政過程の詳細な説明を大衆に提供すべきである。この説明には国税局および税務署並びにその各部課に配分された機能、行政過程における各種の手続、異議申立や上訴に関する規則等の説明を含まなければならない。公表することの適当な内部訓令はできるだけ多くが含まれていなければならない。このような行政過程の説明は絶えず改正し、最新のものにしておかなければならない。
4 税法の行政上の解釈 (Administrative Interpretation of Tax Laws)
税法の客観的適用を基礎とする税務執行の改善は必然的に税法の重要な規定に関する多数の解釈問題を惹起するであろう。国税庁は、行政過程のこの部分を託することのできる資格のある税務官吏の一団を育生すべきである。このような解釈は国税局および税務署ばかりでなく、可能な最大限まで公衆へも提供さるべきである。それは「解釈」または「判定」といったような特別の主題をつけ、且つ適当な索引をつけ、編纂されるべきである。
この全国的段階における正式な解釈的手続は税法の適用に際して地理的画一性をもたらすのに非常に役立つであろう。国税局と税務署においても同様に、国税庁に照会することを必要としない比較的小さな解釈問題を処理するために、資格のある者を任命すべきである。
5 官庁の手続 (Office Procedures)
国税局および税務署の双方における官庁の手続は完全な検査と近代化を必要とする。それはまだ所得税および法人税の大衆課税の速度に同調するまでに至っていない。相当程度まで問題は適当な設備の欠如にある。税務署はたいてい、古臭い建物であり、照明が悪くて能率的な事務処理に適していない。納税者を応接し、かれらの問題について話し合うような設備は全般的に不足している。適当な事務設備、たとえば、書類綴込棚、カーボン紙、綴具等は大多数の場合皆無である。交通機関は一般に最少限の必要を遙かに下回っている。記録の保管は、特に近代租税制度の必要と対比する場合、ほとんど原始的段階にある。
問題の他の側面は、現有の職員の非能率的使用にある。職員の最も能率的な割当を決定するためには、徹底的な職務分析が必要であろう。役所の事務の一方面の改善が、以前にその仕事にあたってた職員数を減ずることとなるが、その過剰人数を、もっと職員を必要とする、他の方面へ配置すべきである。かくして、記録整備の改善は、徴税にあたっている外勤陣に役立つ職員を増加せしめ得るであろう。これによって、現在の制度のように職員の執務時間の一部分は内勤の記録整備、他の一部は外勤事務というようにする代りに別個の外勤部隊を創設することができるであろう。
その上、重要職員をもっと信用し、かれらにより大きな責任を負わせるべきである。国税局、および税務署のこれらの重要職員には最も有能な官吏を獲得するようあらゆる努力を傾注すべきである。
もう一つの面は、近代租税制度に必然的に伴う大量の書類および資料の能率的な処理ができるような事務上の手順および手続の必要な改善である。記録整理は、もっと能率的でなければならない。標準型用紙を発達させ、番号付けを採用し、用紙識別の迅速をはかるため異なった色を使用すべきである等々。
これらの困難を打開しようとする方向へ第一歩が踏み出された。ある地域では新建築物を獲得した。建物の立派な、能率的に運営されている事務所が官吏の士気と納税者の協力とにおよぼす影響は一般に認められている。記録整備と手続は問題にされ改善されてきた。局地的に運営されているが、国の監督の責任を有している監督官の一団が事務運営を検討改善するために設置された。
税務署内のあらゆる運用面の改善に強力に注意を払うために、一群の税務署が基準税務署または「E」署と名付けられた。この仕事の主要部分は納税者との関係に関するものである。それ故、これらの税務署で行われる計画の中には納税協力の増進をはかる教育活動、更正決定および、実際調査を行う以前にできるだけ多くの場合納税者と連絡すること、記録をつけることについて納税者を援助すること等が含まれている。それは全て能率的な運営状態において客観的課税を実施せんとする包括的な目的のためになされるのである。
このような模範的計画は強力に推進されなければならない。実績をあげたものは、税務官吏の交換訪問、またはその他の方法によって、他の税務署の運用手続に導入されるべきである。
事務設備と運用の近代化の仕事は重大である。その達成には絶えず活発に努力することが絶対必要である。この努力は不十分な歳出予算によって妨害されるべきものではない。このように必要な改善と近代化に支出される資金は有効な支出である。このような支出はこの近代化計画が結果する徴税額の増額によって何倍となく補充されるであろう。
E 付帯問題 (Colateral Matters)
1 会計 (Accounting)
a 会計の重要性
近代的な所得税および法人税の税務行政を成功させるには、一定の資格を有する独立の会計専門家を必要とする。かかる税務行政の遂行上必要な諸施策のうち、日本の当面する大問題の一つは、この専門家をほとんど全く欠いているということである。たとえば、米国または英国の標準でいうような公的会計技術に練達した独立の公認会計士はほとんど存在しない。しかのみならず、一部分は長期の戦争と、したがって外国の近年の進歩発展を継承できなかった結果として、会計の基準は甚しく退化してしまった。かくて近代会計の応用を利用できる独立の会計専門家の制度を日本に発達させることは喫緊の要事である。
b 公認会計士法の施行
公認会計士の資格を規定する新法は、この困難を解決する主要な鍵である。
この法律は、人格高潔であって真に能力ある者のみが、公認会計士を開業する栄誉をかち得るように、施行されなくてはならない。新法がかように運用される暁には、新法施行の責任者である大蔵省は、税務行政の負荷をはかり知れぬほど軽減することができる。この法律を執行するため、大蔵大臣の任命する会計士審査委員会は、議論の余地もない程人格高潔で且つ高度の能力を備えた者によって構成されねばならない。われわれは、この委員会の地位を、大蔵大臣の一般的管轄下の独立の委員会に変更するように主張する。この変更は、新たに人を必要とするものではないが、委員会の地位をいちぢるしく改善するであろう。試験は、受験者の知識を十分に検査するに足りるものでなくてはならない。計理士としての従来の実務では、公認会計士の資格を与えるには不十分である。
この点に関し、従来の公認会計士法に加えられた最近の改正は、右の目的の十分な完遂上、重大な関心を呼ぶものである。1949年6月の改正は、引続き十五年以上開業している計理士に対しては、陪審式試験を行って資格を与える特例を認めた。陪審式試験に、厳格な客観性を持たせ、情実を交えぬようにすることは至難の業である。かかる計理士に対して、客観的な筆記試験の要件を免除するだけの十分な理由は存しない。従ってこの改正は廃止すべきである。その代り、かかる計理士に対しては、現在この方面の業務に携わっている者に対して、現に行われている特別試験を受けさせねばならないこととする。受験者の資格の綜合判定においては前歴が考慮される余地があるような制度であるから、この特別試験の試験官は、有能であるとともに完全に不偏不党の者でなくてはならない。
改正前の公認会計士法の下で要求されていた客観的な試験を弱めるような試みに対しては今後一層強力に抵抗すべきである。信頼しうる会計士の育成という重要な仕事を妨げるような政治的考慮も妥協もこれを許すべきではない。
会計士のおそろしい欠乏も、これを標準の引き下げによって満たしてはならない。真に適当な資格のある会計士の数を徐々に増加させる長期的解決は、程度の落ちた多数の者を速成する短期的解決よりは、あきらかに勝っている。将来、公認会計士の称号は、公衆、税務署、外国の投資家およびその他関係者が、その会計能力と、高潔な人格とを信頼できるような者に限って、少しづつ与えられるようにしなくてはならない。公認会計士の称号を担う者に対する信頼は、近代税務行政に不可欠な会計制度の拠って立つ基礎をなすものであるからである。もしこの基礎が不適当ならばこの会計制度は崩壊するのである。
c 会計の標準と業務の改善
(1) 会計標準改善委員会
日本の会計業務を改善するためには組織的な努力がなされねばならない。この方向への発足は会計標準改善委員会の設置によって行われた。この委員会は、政府であると私人たるとを問わず、会計標準の問題に関心を有する者の利益を代表する独立の諮問機関として引続き仕事を続けるべきである。特に、国税庁はこの委員会に代表を出すべきである。この委員会の勧告の効果は委員個人の貫禄と活動の如何にかかっており、勧告自体は諮問的なものにすぎない。
(2) 証券取引委員会
証券取引委員会も経理基準を向上するために指導的役割を演じなければならない。同委員会は種々の会計上の書類の様式を規定する権限をもっているから、経理習慣の発達に大いに貢献し得る優れた立場にある。同委員会は会計基準を規則として公布するようにすべきである。他国における経験ではこのような経理基準の規定は経理慣習を大いに改善できることが証明されている。このように証券取引委員が経理基準に関する規則を発表することは日本において必要な改善を達成するための最も効果的な一歩となるであろう。他のところで述べたように、この機関はまた取引所と証券発行の統制の一部として、会社の年次報告およびその他の会計報告の形で多数の資料を蒐集することができるであろう。これらの資料は税務官吏にとって非常に役立つであろう。以上の理由で証券取引委員会と税務官吏との間に緊密な連絡を保持する必要がある。証券取引委員会が効果的な機関として発達するのを援助するために大蔵省と法務府は最大限に協力すべきである。このような援助は予算、人員、設備、証券取引委員会の法律、規則の違反を速かに訴追することまでに及ぶべきである。
d 独立公認会計士をもっと利用すること。
税法は、一定所得額を超えるすべての法人および個人業者の申告書には独立公認会計士の証明する貸借対照表、損益計算書およびその他必要な資料を添付するよう規定すべきである。
その上、損失の繰越しまたは繰戻しの如きある種の特権で、注意深く監督されなければ悪用される慎れのあるものは、公認会計士によってその帳簿を監査され、且つ多分その申告書をも証明を受けた納税者に制限すべきであろう。ただ、この点で問題はその時期 —即ち、公認会計士の人数が何時このような規定を実現するために充分になるか— である。証券取引委員会は証券を発行するかまたは取引所で取引する法人の場合このような証明を要求する権限を有している。同委員会が可及的速かにこのような権限を行使することが期待される。税務官吏も、同様に、証券取引委員会との緊密な連絡のもとに、同委員会が活動すると同時に速かに、法人に対して税徴収のためにこの規定を遵守させるべきである。その後、この規定は独立公認会計士の数がこのような拡張を可能とするに応じて迅速に租税目的のためにその他の法人および個人にも及ぼすべきである。このような委任的規定が出来る以前に、またそれ以後においても、このような規定を受けない納税者に対して実業会計団体による教育を通じて、独立公認会計士を自発的に使用することを奨励する手段がとられるべきである。
このように公認会計士に依存することは、監査や公表報告書の考案のような会計学上の現在の技術を著しく向上させることを必要とするであろう。会計士達はかれらの同方面における能力を向上させるためにあらゆる可能な方法を利用しなければならない。
e 大学およびその他における会計学の教授
会計学の科目を設けている大学およびその他の機関は学生達にできるだけ最善の訓練を与えるためにその教程と内容とを再検討しなければならない。
理論的および実用的の双方の見地から、近代的な技術に立遅れないようにあらゆる努力が傾注されなければならない。
f 国税庁の会計士
国税庁は練達な専任会計士の一団を発達させるべきである。これらの会計士は租税目的のための正式な会計手続について助言し、会計上の問題が含まれている場合に税法の行政的解釈の討議に参加し、税務会計の発展向上について事業団体および会計士協会と談合し、調査官および査察官の仕事を援助し、その他の関連した任務を遂行する。
g 外国資料の利用
会計の実際に関する米国およびその他の国における発達についてできるだけ沢山の資料を入手するよう努力すべきである。現在日本の学校における会計学の教程を視察するために会計技術のより高度に発達した諸国から数人の会計学の教授および実務家たる会計士を招へいし、且つ学校、会計規準改善委員会[# 前記cでは、"会計標準改善委員会"と訳されている]、証券取引委員会およびその他の関係団体に会計規準[# 前記cでは、"会計基準"と表記されている]および実務について助言を受けるのがよいことである。また、この分野で著名な日本の会計士の一団が他国を訪問して、近代的な会計技術および慣習に習熟することも非常に望ましいであろう。
h 総司令部の監督
会計に関するこれらの勧告を実施し、適当な計理士業の樹立を援助する仕事は総司令部の特定な部局に明確に担当せしめるべきである。それは一般政治または民政の問題ではないが、極めて重要な専門的な仕事である。
2 帳簿と記録 (The Keeping of Books and Records)
a 現在の不十分な記帳
申告納税制度の下における適正な納税者の協力は、かれが自分の所得を算定するため正確な帳簿と記録をつける場合にのみ可能であるということは自明の理である。今日、日本における記帳は慨嘆すべき状態にある。多くの営利会社では帳簿記録を全然もたない。他の会社は有り余る程沢山もっていて、その納税者のみがどれが本当のものでどれが仮面に過ぎないものかを知っている。その結果は悪循環となる。税務官吏は正確な信用すべき帳簿がないから標準率およびその他の平均額を基礎とする官庁式課税による他はないと主張する。納税者は、また、税務官吏が帳簿を信用しないから、たとえかれらがそれをやる能力があっても、正確な帳簿をつけることは意味がないという。この循環は切断しなければならない。納税者が帳簿をもち、正確に記帳し、その正確な帳簿を税のために使用するように奨励、援助するようあらゆる努力と工夫を傾注しなければならない。同様に、税務官吏がそのような正確な帳簿によって表明された報告を尊重するようにあらゆる努力と工夫を傾注しなければならない。
b 大企業
大会社については余り困難な問題はない。大会社は正しい帳簿と会計をつけるに十分な職員をもっている。
会計規準と独立監査について行った前述の勧告は適確性と全般的な標準化をもたらすであろう。訓練された調査官の幹部による適正な調査は反抗者達が列外に出ないように大いに助けるに違いない。
c 中小企業
(1) 教育面
大問題なのはあらゆる種類の中小企業の会計実務の改善である。農業者についても同じ問題がある。しかし、農業所得に関して提案した計画に鑑み、その程度は遙かに少い。その大部分は教育の問題である。このような会社および個人の活動に関係する全ての団体は正確な帳簿記録をつけることの重要性を強調しなければならない。このような提案には商工会議所、同業組合およびその他の営業団体、農業協同組合、およびこれに類するものの協力が得られねばならない。中等学校でも簿記の課目を重視し、監査教育にあたっている機関はこのような教程を同様に促進すべきである。
(2) 記帳の模範的様式の作成
このような教育活動を効果あらしめるには、かかる会社および個人にその職業および教育水準に適合した帳簿様式を提示することが必要である。このような方向への前進が各所で行われて居り、その結果は非常に頼もしい。会計規準改善委員会はこの点で役立つ。前述の大学、営業団体、農業組合も同様である。このような努力には大蔵省は国税庁、国税局および税務署を通じて全面的に協力すべきである。この仕事には農林省のような他の政府機関も参加すべきである。
会計様式は簡易にしておくべきである。様式は必要があれば、異った事業および異った農業条件に応じて変更すべきである。会計様式はまた税務官吏が迅速な監査と調査を行い得る如きものでなければならない。
(3) 正しい記録をつけるための誘引策 — 税務署の態度
教育と道具の提示だけでは恐らく不十分であろう。このような道具を納税者が利用するように積極的に奨励する報酬を与えねばならない。一つの可能性は帳簿記録をつける納税者には特別な行政上の取扱を規定することである。かくして、このような特別取扱を希望する納税者は正確な帳簿記録をつける意図があることを税務署に登録する。これらの帳簿は税務署で認可された様式を用いてつけられる。それは先に述べた各種の発達した様式の中の一つであろう。このように帳簿記録をつけている納税者は他の納税者と区別されるように異った色の申告書を提出することを認められる。税務署はこのような納税者がもしそのような帳簿記録をつけ、申告をこの特別用紙ですればその年の所得を実地調査しない限り、更正決定を行わないことを保証する。また、更正決定を行ったらその明確な理由を表示しなければならない。
他方、このような帳簿記録をつけない納税者は更正決定前に調査することが保証されず、標準率によって更正決定される。その上後者に属する納税者は国税局に控訴することを許されない。
帳簿をつけることを申し出た納税者に対して、税務署は、ある場合には、その年の中途に予備調査を実施して記帳を照査し、納税者が正直にやっている場合にはこれを援助し、必要な水準までに帳簿をつけていない場合には特別申告の特権を取消すことができる。もちろん、申告書のいかなる調査も帳簿を最終的なものとする必要はない。しかし調査は更正決定の前に行わなければならない、そして、帳簿が不正確であることが明確に指摘されない限りそれは尊重されるべきである。脱税の意図をもって虚偽の帳簿をつけた場合および規定された帳簿を誠実につける気が全然なくて特別申告書を使った場合は処罰すべきである。もしこのような帳簿を正直につける納税者の数がその全部を調査するには多すぎることが分ればどの申告が最も調査を必要とするかを決定するために標準率を使用する。しかし、標準率に基ずいて選定された申告書は更正決定を行う前に実地調査をされなければならない。
前記の制度はそれ故正確な帳簿をつける勧誘手段となるだろう。他の誘引策も考慮しなければならない。かように更正決定に関する標準率は帳簿の欠如が税の軽減ではなくむしろ重課の可能性を意味する程度までに引上げらるべきである。帳簿をつけないものに対しては減価償却と繰越し欠損を認めない。適正な税務行政においてはこの問題は余りにも重大でその解決が余り重要なので記帳を必要な程度まで促進させるため、これに対し全努力を集中すべきである。
3 税務行政における同業組合の地位 (The Place of Trade Associations in Tax Administration)
a 現在の役割 — 税の団体交渉
同業組合は日本の経済機構の中に深く根をはっている。
この支配的状況と税務官吏の直面している容易ならぬ状勢は、両者あずかって同業組合をして税務行政における欠くべからざる一部とならしめた。その結果は税務行政過程における重大な歪曲をもたらした。適正な税務行政を実現しようとすれば、租税活動に同業組合が参加することを停止しなければならない。
現在、同業組合はしばしば、その組合が代表する営業活動のため税務署といわゆる団体交渉に入ってその全体の税額をきめる。このような数字はこの交渉で両者が最初に提案した数字のおそらく妥協によって得られるものであろう。組合は、その次には、この税額を各組合員に割り当てる。その割当の方法は組合運営の方法によって異る。ある場合には「ボス」または少数の者が全部を決めてしまう。場合によっては組合員がもっと活発な役割を演ずることもある。それ故、割当における公平の度合は組合によって変ってくる。そこで組合員はこのように割当てられた税額に達するように申告書を作り上げる。かくて、組合員は各自申告書を提出して納税してもよく、あるいは組合を通じて一括して納税することもできる。
組合員は必ずしもこのような組合活動に従う必要はない。従って、別個に税務署と交渉する方が得策であると考える組合員は個別的に行動してもよい。このような組合員は、税務署に親戚、知人その他の関係者を持っている場合が多い。他の場合は、割当方法に不満があって結局別個に行動するものである。
このような賦課及び納税の方法は、余りにもたやすく恐喝、ボス支配、情実及び資金の横流しを招き易い。
税務署に支払うかのように見せかけて金額が徴収されるが、結局のところ他の方面へ流されてしまうことが屡々ある。更に、この同業組合の団体交渉による課税の制度は客観的税務行政と明らかに相容れない。
b 同業組合の税務行政参加の廃止
このような弊害を除去するために、同業組合は、その組合員全部または個々の組合員の税に関して税務署と協議し、または団体交渉をすることを許さるべきでない。同業組合は、その組合員のために申告書を提出したり、納税したり、または組合員に対して税額を割り当てることも許さるべきでない。同業組合は、税のためにその組合員の順位を決定し、または組合員間に税の割り当てをすることになるような情報を税務署に提出することを期待さるべきではない。
要するに、同業組合が課税および税務行政に参加することは完全に廃止せられねばならない。同業組合は同業組合として行動することは差支えないが、税務機関として行動することはできない。
課税は政府の機能であって民間団体のなすべきことではない。もしこの機能が民間団体の手に渡るならば、必ず恐喝、ボス支配、情実および差別待遇の悪弊が発生する。同業組合は、合法的に国会に行って、租税立法に関してその組合員を代表することもできるし、あるいは、全般的な行政手続に関して大蔵省に行くこともできる。しかし、如何なる方法においても、直接税務行政に参加することは許されない。
かかる同業組合の活動を禁止するように法律を改正すべきであり、かかる禁止を実施するための権限を大蔵省に付与すべきである。
同業組合が税務行政に関与しないように気を付けることは税務官吏の義務である。
このような同業組合の税務行政への参加の廃止は、税務署の事務負担を増大せしめることとなるであろう。同業組合の組合員から適正に税を徴収することを保障するためには人員の増加を必要とするであろう。しかし、かかる必要な経費は、政府の手に残されねばならない政府の機能を維持するために充てられるであろう。予算面からする議論は、その機能を民間団体に譲渡することを納得せしめるものではあり得ない。
4 納税者の代理 (Taxpayer Representation)
税務官吏に対する職業的立場からする納税者の代理業務は、現在税務代理士によって取扱われている。これらの代理士は大蔵省の認可を受け、その活動並びに手数料は同省によって監督される。税務代理士の数は現在三千二百人である。
一方少数の弁護士と、そしてこれよりも多くの会計士が税務代理士の認可を受けているが、この業務の大部分は以前に税務官吏であった者によって行われている。現在純所得の客観的捕捉が不十分で、これに伴い税務署と納税者との交渉が重要性を増して来た結果は、主として、納税者の代理としての税専門家というよりもむしろ上手な取引者ができあがっている。ある場合においては、この「取引者」と云う語は「買収」収賄とおよびこれに類似するものを意味する婉曲な語句である。
もし、単にえこひいきまたは寛大を得るために交渉するのではなくて、納税者の代理を立派につとめ、税務官吏をして法律に従って行動することを助ける積極的で見聞の広い職業群が存在すれば適正な税務行政はより容易に生れるであろう。
また引き続いて、適正な税務行政を行うためには、納税者が税務官吏に対抗するのに税務官吏と同じ程度の精通度をもってしようとすれば、かかる専門家の一団の援助を得ることが必要である。従って、税務代理士階級の水準が相当に引き上げられることが必要である。かかる向上の責任は主に大蔵省の負うべきところである。税務代理士の資格試験については、租税法規並びに租税および経理の手続と方法のより完全な知識をためすべきである。税務代理士の活動の監督は厳重に行わなければならない。多分納税者を査察していると思われる国税庁における特別な査察官の一団は税務代理士の誠実を査察するために活用せらるべきである。税務代理士の行為に関する苦情は遅滞なく且つ十分に調査されなければならない。税務代理士は税務官吏に面接する場合にその身分を容易に明らかにする小型の公式証明書を交付さるべきである。税務官吏もまた業として納税者を代理する者のかかる身分証明書の提示を求めるべきである。
弁護士および公認会計士が、税務官吏に対して現在よりも遙に多く納税者を代理するようになることは望ましいことである。法律の詳細且つ明確な規定の下における客観的課税は訓練された叡知を必要とする。これらの専門家団のサーヴィスが充分に利用できないとすれば、納税者は、税務官吏の避け得られない誤謬に対してその地位を適当に保持することが不可能となるであろう。
現在では、納税者は、その希望により、友人またはその他の個人に代理してもらっても差支えない。税務代理士の認可を受けなければならないのは人が代理業に従事する場合に限られる。
特別な場合に納税者を個人的立場において援助するというこの能力は存続せらるべきである。そうでないと、特に税務行政の現状に鑑み、納税者による異議の申立は多くの場合余りにも費用がかかることとなろう。しかし、結局税務行政が改善せられ、より専門化し、且つ階級としての税務代理士の能力と堅実性が保証されるようになれば、納税者代理をその階級に限定することがおそらく望ましいことになるであろう。少くとも、このことは納税者のためになされる訴願の取扱いに関して然りである。
各地の国税局および税務署に対し納税者を代理することは本質的には個人的な問題である。事件は個人的基礎の上に立って論議検討さるべきである。税務代理士またはその他の代理人は通常その特定の出頭を特定の事件に限定すべきである。訴願および異議の申立を一括して取扱うことは適当な手続ではない。租税事件は一括して論議決定せられるべきものではない。納税者の階層に対するその影響の面から全般的な行政手続を検討することが妥当である。しかし、租税債務をおよび租税に関する論争を一括して検討することは税務官吏によって許可さるべきものでもなく、また納税者の代理人の参加すべきものでもない。
5 租税関係資料 (Tax Materials)
a 官庁の資料
(1) 税法 — 所得税法および法人税法は大部分公の刊行物をに編纂されている。これらの法規集の毎年の改訂は継続すべきである。適当な索引を付しなければならない。これらの法規集が完全に網羅的であることが保証されるように注意を払わなければならない。
(2) 省令および規則 — 所得税法および法人税法に関する省令および規則も同様に公の刊行物に編纂されている。これらについてもまた絶えず改訂を行い、適当な索引を付し、網羅的にして置くべきである。
(3) 解釈および判定 — 国税庁の解釈および判定は現在一般に公開されていない。これらは今日、国税局および税務署に発する通牒に統合されている。これらの解釈および判定は通牒から分離し、適当な索引を付して一般民衆の用に供すべきである。これらは明らかに同一視し得る用式で定期的に発行され、常に最新のものにして置くべきである。
(4) 判例 — 国税庁かまたは民間の出版業者のいずれかが、特に租税問題に関する判例を便利な形で利用するようにして置くべきである。
(5) 行政手続 — 国税庁は所得税および法人税の下における行政手続、すなわち、行政機構の各構成部分の機能、各種の手続段階に関する規定およびその他の関係事項全部に関する完全な解説書を出版すべきである。
(6) 一般国民に対する啓蒙 — 前記の資料は大部分弁護士、会計士、税務代理士およびこれに類する者の如き国民中の専門家向きのものである。国税庁は同時に一般納税者でも容易に理解できる、簡単な読み易い形の税法の解説書を出版すべきである。これらの解説書は税法の実体規定の内容についてばかりでなく、行政上の手続段階についてもなされるべきである。
解説書は、「農民の税」、「被用者の税」、「小企業者の税」等の如き各種の納税者向きのものにし、啓蒙宣伝技術の訓練を受けた者の協力を得て作成さるべきである。
(7) 統計資料 — 国税庁は所得税および法人税に関する完全な統計資料を定期的に利用に供すべきである。かかる資料は、納税者数、申告件数、徴税額、更正決定件数、異議の申立件数および異議の申立に対する処理件数 — 要するに税務行政の完全な運営に関し識見のある理解を得るために必要な一切の統計資料に関するものでなければならない。
b 官庁以外の資料
(1) 租税に関する文献 — 税の経済的および財政的問題以外に税の技術的問題についての文献が増えることもまた望ましい。各種の専門的および技術的雑誌には税に関する技術的問題をとり上げた権威ある論説を掲載する余地を作るべきである。税法の実体規定および税の法律的並びに経理的問題について適当な参考書を利用し得るよう保証する措置を講ずべきである。
(2) 税に関する討論 — 租税問題に関心を有する各職業人は、租税の問題に関し、識見ある討議を活発にすべきである。弁護士会、会計士の会、大学の連合団体およびこれに類するものがその構成員および租税問題に関心を有するその他の者のために討論会を開催することを奨励すべきである。かかる活動は、税の問題について一般納税者を啓蒙するために必要な大衆的討議とは異った水準で、且つまた全然別個になさるべきである。
これらは、税に関して専門的関心をもつものを実質的に援助することとなる程度の技術的内容をもつべきである。もちろん、このような団体はまた、一般納税者に通俗的な知識および討議を与えることに協力すべきである。
(3) 税法の講座 — 各大学の法学部においては、税法の講座を独立の科目として設けるべきである。
税法の実体的および技術的規定並びに税務行政の専門的部面に注意が向けらるべきである。
(4) 外国の文献および情報 — 租税制度の実体的および行政的部面に関する外国の文献および情報をできるだけ多く入手するためにあらゆる努力が払われるべきである。
F 結論 (Conclusion)
所得税および法人税に関し日本の当面する基礎的課題は、何百万という納税者に適用される近代的所得税法および法人税法を施行するために必要な完全な機構を作り上げることである。この課題は極めて重要なものの一つである。それは、日本国民の努力と、創造力と忍耐力に対する真の挑戦を意味する。その事業は一夜にして成るが如きものではない。適正な税務行政は一年や二年のうちに突如として出現するものではない。それは日本国民によっても、またはその他の国民によっても、徐々にしか獲得できないものである。それが果して獲得できるものであるかどうかまた、いかなる程度に達成されるかということは日本人自身にかかかっている。しかも、右の問に対する回答は国民全体にかかっているもので、税務官吏または様々な納税者の集団のみにかかっているものではない。
出発の第一歩は日本人により既に踏み出されている。将来に対し相当な希望を持たせる如き手続がとられ、計画は進められている。
しかし、もし十分な進歩を遂げようとするならば、税務手続および徴税のあらゆる分野にわたって着実な改善が一様に開始されなければならない。全般にわたるこのような不断の努力は複雑な事柄である。しかし、所得税および法人税の執行はその最悪の時期を既に過ぎたと信ずべきあらゆる理由がある。前途の見通しは明るい。
向う数カ年間は、税務行政の平易化と租税構成の簡素化が指導的原理でなければならない。税務機構は大多数の納税者について円滑に運用できるように整えられなければならない。このことが達成された暁においては、租税の公平を正確ならしめるのに必要な一層詳細な点に注意をより鋭く向けることができる。しかしながら、その場合にも、正確度の必要性は、常に執行上の要請と均衡を図られなければならず、また改正はすべて実用的に運用できるかどうかについて吟味されなければならない。
[# 付録D おわり]