住民税は、複合的な人頭税であって、所得その他の担税力を課税標準とする租税である。この租税は都道府県と市町村とが課税するものである。この租税は、市町村が徴収の任に当るのであって、都道府県分を送付する。本年度の住民税収入は最低二百三十億円と予想されるが、恐らく二百七十億円に垂んとするであろう。この金額の半分足らずは都道府県の収入となり、残余は市町村の収入となるものである。収入総額の五分の一以上が法人からの収入である。

 各個人の負担する税額を決定するのには独特な方法がとられている。第一に、都道府県は、納税義務者一人当り平均賦課額を決定する。市町村もまた同様の決定を行う。都道府県も市町村も、法律の確定する標準賦課額を基準とするのであっるが、地方団体が必要と認めるときは、この標準賦課額を百%だけ超過しても差支えない。更に内閣総理大臣(地方税審議会が代理する)が拒否しなければ、それ以上とすることもできる。かような拒否が行われた例は未だない。本年度の標準賦課額は、一人について、都道府県の場合は、七百円市町村は七百五十円である。昨年度は、都道府県、市町村ともに四百五十円づつであった。昨年度において、北海道のある地区では平均賦課額が標準賦課額の十倍に達したところがあった。かかる高率は全く例外的ではあるが、標準賦課額を二十%超過するような事例は全く普通である。

 都道府県が平均賦課額を決定すると、この額に納税義務者の総数を乗じて得た賦課総額を各市町村に配布し、市町村はこの徴収に当ることとなるのである。
 この配分は概ね各市町村の人口に比例して行われるのであるが、所得および資産の状況が考慮されることが多い。配分手続が終ると、都道府県は、市町村の徴収した税金を収納し、滞納している納税者を徴求する外は、活動を行わない。

 一方各市町村もまた、自分のために市町村住民に対する平均賦課額と賦課総額を決定する。この総額を、都道府県から配分された額に加えると、賦課すべき住民税の総額が定まる。かくて、この総額を住民に配分する段階、還元すれば住民一人一人の納税すべき額を決定する手続となる。

 第一に均等割りの人頭税額が定められる。この部分の税額は、所得税額の総額から差し引かれる。その残額は、一個または数個の基準に従って、住民に割当てられる。この基準のうちで最も普通に用いられるのは、所得である。つまりできるならば、住民税は納税者の所得税申告書によって税務署に申告される所得を基準として課税されることになるのである。しかし、多くの場合、住民の所得は少額であるために、申告を行わないことがあり、または他の都市で全税額を源泉徴収されている場合も少くない。そのため、市町村税務当局は、所得の外形標準を用いたり、住民の雇主から報告を徴したりするのである。

 特に人口五千以下の比較的に小さい多くの村及び多くの町においては、所得ではなくて、ある複雑な格付け制度が基準となっている。この制度では、いろいろの要素例えば社会的特権すら考慮に入れられている。
 格付けは、部落の長(百ほどの世帯の長)及び町村長によって行われる。これよりも若干大きい市町村は、全部ではないが、多く所得の外に資産もその基準となる。賦課率は普通累進的ではなくて定率である。但し、扶養親族に対する考慮が払われている例は多い。

 このようにして各納税者に割り当てられた税額は、もちろん、都道府県の収入となるべき部分をも含んでいる。しかし個人に対する割当方法は、都道府県がその住民税の市町村負担分を決定する配分方法と同一である必要はなく、また通常これとはほとんど関係がないのである。

 現在の形態の住民税は(少くも市町村税として)1940年に始まるものであり、更に遡れば戸数割にその源を求めることができる。それが、地方歳入の増加を図るのに格好な方法であると一般に考えられていることは明らかである。われわれはこの税を維持強化することを勧告するものであるが、この場合以下に述べる改革を行うことが必要である。

一 この税を専ら市町村の財源とする。市町村は、もし全収入を得ることとなれば、この税の賦課徴収について現在よりも一層努力し、創意をこらすことになるであろう。

  住民税を全額市町村の財源とすることの他の理由は、入場税を都道府県に移すことを勧告しているからである。更に又、われわれの地方税財政に対する一般的計画は、市町村を都道府県よりも強化することを要求しているのである。

二 市町村が、均等割によるもの以外の住民税額の部分を割当てるに当って、基準として用い得るのは所得だけに限定する。小町村における現在の格付け制度はわれわれの勧告通りに住民税収入を大巾に引き上げる場合には、余りにでたらめであって到底これを用いることはできない。若干の比較的大市町村が用いている、所得以外の諸種の基準は往々にして財産的要素を含みすぎている。
  われわれは地租、家屋税の大巾引上げ並びに富裕な者の純財産に対する国税を勧告している以上住民税の決定において財産を考慮すべきではないと信ずる。

  この税の人頭割の基準はある程度限定されなければならない。次に述べる額は、確定的に勧告するのではないが、最高として示さ[# 示唆]される。

人口五十万以上の市
人口五万乃至五十万までの市  
他の市町村全部

三 法人は住民税を課税されるべきでない。株主は住民税のうちの所得的要素によって、配当を受取るとき、または、その株式を売却して譲渡所得を実現するときに課税を受けるであろう。

四 住民税中の所得的部分は国税たる所得税に対する地方的付加の形とする。各市町村は次の三種の方式の中一種類を選択するものとする。(一種類しか選択できないものとする。)(a)住民の納めるべき国税たる所得税に一定率を乗じたもの。(b)住民の国税たる所得税の申告書に記載してある基礎控除および扶養控除後の所得金額に対する課税。(c)控除後の所得金額から国税たる所得税額を差し引いた残額に対する課税、つまり、(b)に定義した所得金額から国税たる所得税額を控除した残額に対する課税。(b)または(c)において課せられる税は、市町村の選択に従って定率または累進率によるものとする。いかなる場合にも市町村は左の額を超えて税を賦課することは許されない。(a)を選択する場合税金は所得税の二十%を超えるべきでない。(b)を選択する場合、最高率は十%を超えてはならない。(c)を選択する場合最高率は二十%を超えてはならない。比例税率で多額の収入を挙げることが目的であれば比例税率には(c)がもっとも適合している。

五 この税で住民とは左のものをいう。

  すべて、成年者であって、雇用、財産または、事業から所得を得るもの。但し、所得税申告の際共同申告書に記載される所得を得る妻は、この税においては住民とみなさない。被用者、事業主、不在財産所有者は一箇所だけで、住民税を支払えばよい。これはそのものの住所地で支払うものとする。

六 失業していて、救済を受けているか、または、その他の非常な困窮を受けている個人だけを非課税とすべきである。

七 すべて市町村は納税義務者に対し、徴収令書とともに、税額計算明細書を交付するものとすること。

八 住民税の基礎を供給するため国税たる所得税の申告書を用いるべきことをわれわれが勧告する理由は、二重の行政を避けることにある。しかし、地方団体は、時に非能率であり、まゝ腐敗の心配もある税務署の意のままに放置されてはならない。従って、市町村が、重要な場合に所得の実質的な過少賦課を示す資料を地方財政委員会(第二章)に提出するならば、その市町村は、住民税の所得的要素に対して独自の課税をなす権能を与えられるであろう。地方財政委員会は、市町村のためにこの規定を広義に解釈すべきである。
事実、われわれは多くではないが一つ以上の市町村が少くともここ数年のうちに自ら課税するようになるのを期待している。

 人頭税的要素の収入の最大限は上述した制限の下で百五十乃至二百億円近くになろう。しかし、常に最大限が課税されるとは想定しない。もし、市町村が住民税から一年に約六百億円の総額を得るものとすれば、たいていの市町村は、四において勧告した最大限を余り下回らない程度にかれらの所得税を課するであろう。

[# 第十一章終わり]