「藤村いろは歌留多」について
「藤村いろは歌留多」は島崎藤村・作、岡本一平・画により、昭和２年(1927年)１月、実業之日本社から発行された「いろはかるた」です。最近では、1980年12月に同社から復刻発売されました。
以下は、「藤村全集 第９巻」（筑摩書房）1967年7月刊 を底本としました。
同書には、岡本一平・絵による絵札及び読み札の写真もあわせて収録されています。
[# ] はテキスト入力者による注
島崎藤村「藤村いろは歌留多」
このいろはがるた
長いこと私は民話を書くことを思ひ立つて、未だそれを果たさずにゐますが、このいろはがるたもそんな心持から作つて見ました。私の『幼きものに』や、『ふるさと』や、『をさなものがたり』は、形こそ童話でありますが、その心持は民話に近いやうに、子供のために作つたこのいろはがるたも矢張それに近いものです。子供よ、来て遊べ、と言つて、父母も一緒に遊んで下さい。
| [# いろは歌留多] | ||
|---|---|---|
| い | 犬も道を知る | いぬもみちをしる |
| ろ | 櫓は深い水、棹は淺い水 | ろはふかいみづ、さをはあさいみづ |
| は | 鼻から提灯 | はなからちやうちん |
| に | 鶏のおはやうも三度 | にはとりのおはやうもさんど |
| ほ | 星まで高く飛べ | ほしまでたかくとべ |
| へ | 臍も身の内 | へそもみのうち |
| と | 虎の皮自慢 | とらのかはじまん |
| ち | ちひさい時からあるものは、大きくなつてもある | ちひさいときからあるものは、おほきくなってもある |
| り | 林檎に目鼻 | りんごにめはな |
| ぬ | 沼に住む鯰、沼に遊ぶ鯰 | ぬまにすむなまづ、ぬまにあそぶなまづ |
| る | 瑠璃や駒鳥をきけば父母がこひしい | るりやこまどりをきけばちゝはゝがこひしい |
| を | 丘のやうに古い | をかのやうにふるい |
| わ | わからずやにつける藥はないか | わからずやにつけるくすりはないか |
| か | 賢い鴉は黒く化粧する | かしこいからすはくろくけしやうする |
| よ | 好いお客は後から | よいおきやくはあとから |
| た | 竹のことは竹に習へ | たけのことは、たけにならへ |
| れ | 零點か百點か | れいてんか、ひやくてんか |
| そ | 空飛ぶ鳥も土を忘れず | そらとぶとりもつちをわすれず |
| つ | つんぼに内證話 | つんぼにないしよばなし |
| ね | 猫には手毬 | ねこにはてまり |
| な | なんにも知らない馬鹿、何もかも知つてゐるばか | なんにもしらないばか、なにもかもしつてゐるばか |
| ら | 蝋燭は靜かに燃え | らうそくはしづかにもえ |
| む | 胸を開け | むねをひらけ |
| う | 瓜は四つにも輪にも切られる | うりはよつにもわにもきられる |
| ゐ | 猪の尻もちつき | ゐのしゝのしりもちつき |
| の | のんきに根氣 | のんきにこんき |
| お | 玩具は野にも畠にも | おもちやはのにもはたけにも |
| く | 草も餅になる | くさももちになる |
| や | 藪から棒 | やぶからぼう |
| ま | 誠實は殘る | まことはのこる |
| け | 決心一つ | けつしんひとつ |
| ふ | 不思議な御縁 | ふしぎなごゑん |
| こ | 獨樂の澄む時、心棒の廻る時 | こまのすむとき、しんぼうのまはるとき |
| え | 枝葉より根元 | えだはよりねもと |
| て | 手習も三年 | てならひもさんねん |
| あ | 鸚鵡の口に戸はたてられず | あふむのくちにとはたてられず |
| さ | 里芋の山盛り | さといものやまもり |
| き | 菊の風情、朝顔の心 | きくのふぜい、あさがほのこゝろ |
| ゆ | 雪がふれば犬でもうれしい | ゆきがふればいぬでもうれしい |
| め | めづらしからう、面白からう | めづらしからう、おもしろからう |
| み | 耳を貸して手を借りられ | みゝをかしててをかりられ |
| し | 仕合せの明後日 | しあはせのあさつて |
| ゑ | 笑顔は光る | ゑがほはひかる |
| ひ | 日和に足駄ばき | ひよりにあしだばき |
| も | 持ちつ持たれつ | もちつもたれつ |
| せ | 蝉はぬけがらを忘る | せみはぬけがらをわする |
| す | 西瓜丸裸 | すゐくわまるはだか |
| [# 終り] | ||
[# 現在ではふさわしくない表現もあるかもしれませんが、作品の時代背景と価値を考慮し、底本のままとしました（入力者）]